アラスカで過ごすスキルとは ―冬のアラスカを撮る その7

 木立に沿って15分ほど戻った時、ロープを踏んだ。川の穴の撮影の後、帰り道を見失わないように、テント方向に向かって広げておいたロープだ。「さすがに道を間違えることはないだろうけれど念のため」と思って投げておいたのだが、このロープがなければそのまま進んでしまって、暗い森の中で迷うことになっていたかもしれない。
 危ない、危ない―。「さっきの自分、ナイス!」と思うと同時に、周辺の視野が狭くなっている自分に「よく見て歩け」と喝を入れた。
 それにしても、今日の踏み跡が消える速度は史上最速だ。ずっと吹いている風が悪さをしているからだ。僕の踏んだ跡に即座に雪を吹き込んで埋めてしまう。

 「どんなスキルを身に付ければ、アラスカで一人でずっと過ごせるんですか?」と問われることがある。
 僕は、自分に特段に秀でたスキルがあるわけではないと思っている。経験を重ねたことで、自分で自分のミスをカバーしたり、事前にトラブルシューティングするのが上達しただけだ。その質問には、「登山のスキルはあった方がいいですよ」と答えているが、個人の撮影スタイルに必要なスキルは、それぞれ全く別な物になるだろう。
 この日も、暗くなる前にと急いで来た道を戻ったのだが、結局暗くなってしまった。そうなると、あまり使いたくないヘッドライトをつけて戻ることになる。原野では電池の充電が鬼門なので、やたらと使わないことが基本だからだ。
 暗い中を歩きながら、夏至の頃(6月20日頃)は良かったなと振り返る。ずっと明るいため、ヘッドライトなど使うことがまずないので、持っていく必要すらない。また、薄い太陽光パネルを持ち込めれば、多少は充電もできる。一方、夏はソリを使えないので、荷物は全て背負う必要がある。んー、どっちの季節がいいかなあ。そんなことを考えても、毎度、「ま、どちらも良し悪しだな」という結論に落ち着くのがパターンだ。

 18時頃、テントに戻った。ブーツを脱いで潜りこんだが、風でバタバタとテントが鳴っている。しかし、お腹がグウグウとアピールしていたので、まずは夕食を取ることにした。
 食べものをしっかり取らないとエネルギーがなくなり、どんなに良い寝袋に入っても体は温まらない。体が温まらないと眠れないので、翌日のパフォーマンスが下がる―。そんな悪循環を避けるためにも、野菜とワカメたっぷりのラーメンを2食分たいらげた。
 お腹がいっぱいになって体が緩んだ後、背中に痛み止めを貼った。朝よりはずいぶんよくなったが、どうも首が痛い。今できることは血流を良くして寝ることだ。残り少ないカイロを下っ腹と背中の高い位置に貼って眠ることにした。
 さて、明日以降どうするか。おそらくムースは森の中にいそうだ。しかし当てずっぽうで歩いても、彼らの動きと交差できる可能性は低い。それよりも残された時間をフルに使って山を一つ越えようか。残りの食材、燃料、バッテリーを考え、今できるベストの選択をしたい。ううむ、山越えは楽しそうだけど、時間的リミットに追われそうだ、やはり生き物の冬の暮らしぶりをそばで見てみたいなあ......。などと考えているうちに眠ってしまった。

 何時間後か定かではないが、寝ている間に風が強まり、テントが暴れ始めた。上下左右に暴れるので、とても眠っていられない。テントが飛ばされないよう、補強するために外に出た。ロープを張り直し、スコップで地面に近いところの重たそうな雪を掘り出しテントに掛ける。暴れは少し収まったが、テントをかなり埋めたので内部が狭い。2畳ほどのテントでは、斜めに寝ても足の先が雪に当たる。雪の上に足を置くと冷たいだけでなく、スルスルと落ちてしまってどうも落ち着かない。ええい、とザックの中身を出し、その中に寝袋ごと足を突っ込んで雪の上に置き、半ば意地で寝る態勢に入った。

アラスカ遠征中の御馳走ともいえるラーメン。この日はコーンを入れた。
このテントには穴が空いている。実は数年前、ガソリンに引火して溶けてしまったのだ。冬はあえてこのテントを使用し、ここから雪を取って利用することもある。外が吹雪いている時には外に出ずとも雪を取れる大変便利な“穴空きテント”である。
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