連載終了 アラスカに流れる壮大な物語 ―本になりました―

 アラスカは日本の4倍も大きいのに、70万程度の人しか住んでいません。空から見ると、広い森の中に突如として数十軒の人家が出てきて、「こんなところに人の住処が」と驚きます。町や村の中をムースやクマが歩いていることもあるし、ちょっとした散歩道や里山にも「You are in bear country」と書かれています。つまり、人の暮らしの中に生き物がいるのではなく、生き物の暮らしの中に人がいるのです。
 アラスカはまた、北半球の高緯度に位置しています。夏至の頃には24時間日が沈まない白夜、冬至の頃には日が昇らない極夜となります。そして8月末になると、オーロラが舞うようになります。オーロラは、地上80~400キロ程度の高さ、つまり地球と宇宙の間で光っています。
 オーロラだけでなく日の出も、虹や雨、新緑や紅葉など自然が織りなす光景は、数億年も前から繰り返されてきました。そんな中で生きてきた生き物たちは、数万年、数十万年という単位で種を紡いできました。そうした長い長いモノサシでないと計れない壮大な物語は、僕らの中にも確かにあるはずの"本能"や"野生"といった原始性を震わせます。そしてそれこそが、これから先の時代により大事になってくると信じています。
 僕らも彼ら生き物たちも、同じ場所=地球に生きています。その地球を感じてほしい。そう思ってアラスカの撮影を開始したのが2015年。広い風景と、そこで生きる彼らの自然な様子をメインに撮影に取り組んできました。アラスカには他にも、アラスカネイティブの生き方や石油開発と自然保護の問題、氷河と海の生き物など、テーマにしたいものがたくさんあります。いずれのテーマにしても、今を生きる僕も僕らの子も孫もその孫も、クマもムースもリスも(蚊も)、この星で生きていくことに変わりないのだから、地球について考えるきっかけとなるよう努めたいと思っています。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、2年半もの間アラスカでの活動を中断せざるを得ませんでしたが、2022年7月、久々にアラスカの地を踏みました。チョウをはじめ友人が引っ越していたり、仕事を辞めていたり、馴染みの店が閉まっていました。知り合いのパイロット2人は、暮らしのために飛行機を1~2機売っていました。でも2人とも、「It is what it is (ま、こんなこともあるよ)」と笑っていました。不意に涙が出ました。きっと、彼らもアラスカに流れている壮大な物語の一部なのですね。

 日本とは大きく環境の違うアラスカ。そこには豊かに強く生きていくヒントが散りばめられています。自分一人の写真活動で伝えきれるものではなく、撮影している後ろにも横にも美しい光景や興味深いエピソードがあります。またいつか、そんな"写真の隙間"を披露できる日が来ることを願っています。

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「写真の隙間」が本になりました。
連載のなかから4つのエピソードに加筆、1冊にまとめています。

『写真の隙間』
著者 佐藤大史
A5判 160ページ 4/1カラー
予価 1760円(税込み)
2022年8月発行
全国の書店、ネット書店のほか、信毎の本オンラインショップで販売します。

目次
第1章 白夜を撮る
 遠征のスタート
 地下足袋でツンドラを歩く
 明るい夜
 白夜と極夜の世界で生きる
第2章 アラスカ半島のクマを撮る
 飛行機でビーチに降り立つ
 アラスカの自然との付き合い方
 悠久の時を刻む朝焼けの中で
第3章 冬のアラスカを撮る
 寒さへの恐怖
 雪の中を歩く
 生き物に出会えない
 川底へ伸びる青い氷
 極寒の中のムース
第4章 タイムラプスを撮る
 フェアバンクスから北へ
 長い長いアプローチ
 シュラブとの格闘
 荘厳で雄大な地球のルーティン

本に収録しなかったエピソードは引き続き公開します。

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