信濃毎日新聞ニュース特集

新型コロナウイルス

2020年3月20日

マスクの効果は? 専門家らに聞く

 スーパーやドラッグストアに行くと、ついマスクの棚をチェックしてしまう人も少なくないだろう。新型コロナウイルス感染症の予防のため、マスクの極度の品薄状態が続いている。とはいえ、マスクを着けることで感染を防ぐ効果はどれだけ期待できるのだろう。2人の専門家から、基本のきをおさらい。そもそも、なぜ私たちはこんなにマスクを求めるのか、その背景について社会学者に聞いた。

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信大病院助教・金井さん 広げないための着用は◎

 「新型コロナにうつらないように」と、多くの人がマスクを着ける。だが、感染症に詳しい信州大病院(松本市)感染制御室副室長で助教の金井信一郎さん(47)は「残念ながら、その予防効果は証明されていない」と指摘する。「どちらかと言えば、マスクは感染した人が着けて、感染を広げないようにするためのものです」

 どういうことか。一般的な不織布のマスクは、細菌やウイルスの侵入を防ぐためのフィルターの穴の大きさは5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)。

 これに対し、新型コロナの大きさは0・1マイクロメートル。フィルターの穴よりも、かなり小さい。もしもウイルスが単体で空気中を漂っていれば、物理的にはマスクをすり抜けてしまうことになる。

 ただし、幸いにもそうした状況は起きにくいとされている。新型コロナは主に、接触感染と飛沫(ひまつ)感染で広がるとされる。はしかや水ぼうそうなどの原因ウイルスのように、それ自体が空気中に浮遊して空気感染するウイルスとは異なり、現時点で知られている新型コロナウイルスの特徴を見ると、「空気感染はしないと考えられている」からだ。

 飛沫感染では、ウイルスの多くはせきやくしゃみをまとった飛沫の状態となって飛び散る。「その際、水分を含んだ飛沫は5マイクロメートルの大きさになる」。この大きさだと、マスクのフィルターでキャッチ可能だ。

 飛沫が飛ぶ距離は長くても2メートルほどで、すぐに地面に落ちる。このため「感染した人が近くにいて飛沫が飛んできたときには、マスクをしていれば防ぐことができる」と金井さん。同時に、周りに飛沫を拡散しないためにも「感染した人のマスク着用は効果がある」と強調する。

 マスクの機能や新型コロナの性質を総合的に勘案した金井さんのアドバイスはこうだ。

 「飛沫が自分に飛んでこない状況では、健康な人が予防でマスクをする意味はない。人混みや大勢の人が集まる場所にいない限り、不要です。それよりも、ウイルスが付いているかもしれない手をこまめに洗う方が効果的です」

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英在住の社会学者・堀井さん 日本では儀礼の意味強く

 社会学者で、日本のマスク文化を掘り下げた著書もある秀明大教授の堀井光俊さん(42)は、現在英国に暮らしている。同国の状況と合わせて聞いた。

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 英国でも新型コロナウイルスへの警戒感は高まっている。手洗いが奨励され、消毒液やトイレットペーパーの買い占めに走る人も。だが「マスクには結び付かない」と堀井さん。「医療関係者を除いて、英国人は(予防のために)ほとんどマスクをしません。品薄というより、そもそも流通していないのです」

 なぜか。「個人のアイデンティティーを重視するため、顔を見せることが、社会生活をする上で重要だと考えられているからではないか」。1910年代に新型のインフルエンザ「スペイン風邪」が世界で猛威をふるった時は、英国でもマスク着用が奨励された。しかし「予防効果は薄い」とされ、やがて廃れた。

 日本では、予防効果ははっきりと認められないままマスクが定着していった。背景には、風邪は悪い「風」が体に入ることで起こる―という江戸時代までの迷信があり、マスクが外の「ケガレ」と自分とを隔てる象徴としても捉えられていたという。

 戦後、インフルエンザがはやるたびにマスク着用が叫ばれ、70年代に一時廃れたものの80年代には復権、その後花粉症の需要も加わり、マスク大国となっている。

 「統計や数値で表せる安全と、心理的な安心は異なる」と堀井さんは強調する。「日本人がマスクをするのは、何らかの危機が起きて不安なときに、自分が安心感を取り戻すための儀礼の意味合いが強い」。加えて、自分は危機に対応している―と周囲にアピールする意味合いもある。

 こうした"儀礼"は各国の文化によって異なる。英国では第2次世界大戦以降、「危機にあっても動揺せずに普段の生活を続ける」ことが、社会の儀礼にあたるという。

 儀礼には、危機に際し人々を団結させる効果もある。一方で負の側面も。例えば、マスクを着けていないと肩身が狭かったり、着けていない人を非難がましく思ったりしていないだろうか―。堀井さんは「儀礼が行き過ぎると、別の(考えの)グループを差別したり、排除したりすることにつながる」と警鐘を鳴らしている。

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薬剤師・高垣さん 自分の手からの感染防ぐ

 「マスクを着けていれば、自分の手で自分の顔を直接触らずに済む。その点で、新型コロナの接触感染を予防する効果はあると思います」と話すのは、薬剤師でフリーライター、高垣育(いく)さん(41)=東京都=だ。

 日常の暮らしの中で、無意識のうちに手や指で顔を触ることがないだろうか。頰に手を当てて考えごとをしたり、つい癖で鼻や唇を触っていたり...。どこかでウイルスが手に付き、そのまま目や鼻をこすったり、口を触ったりすると、ウイルスを体内に取り込んでしまう恐れがある。

 マスクで鼻と口をガードしていれば、「自分の手からの感染」のリスクを低くできるというわけだ。この効果を期待するなら「ガーゼのマスクでも、布でもいいと思う」。

 ただ、手で触ったマスクの表面にはウイルスが付いているかもしれない。頻繁に取り換えて、「交換時に表面を触ってしまったら、手洗いを忘れないで」と話す。

 マスクの予防効果について高垣さんは「購入時に、性能をパッケージで確認してほしい」とアドバイスする。例えば「99%カット」との表記がある商品を目にするが、カットできるのは、大きさが30マイクロメートルのスギ花粉なのか、それよりももっと小さい5マイクロメートルの飛沫なのか―。花粉シーズンのさなか、マスク需要は高まる一方だが、花粉対策用マスクの中には飛沫を通してしまうものもあるとみている。

朝の出勤風景。マスク姿が目立つ=18日、長野市