焦点=松本空港 知事「地元の熱意を」 首長に戸惑いも


 田中知事が十八日、視察先の県営松本空港で、懸案となっている空港活性化に向け、抜本的な見直しを始める意向を表明した。ただ一方で、利用者増の見通しが立たなければヘリポートなどに転換する可能性も示唆する。地元の「熱意」や「決断」を強調する知事。これに対し、地元市町村長には「自治体だけで背負いきれない問題も出てくる」と戸惑う声もある。今後、速やかに利用者数の「じり貧」から抜け出す対策がまとまるのかどうか…。

 【滑走路延長】

 「滑走路を北に延ばさない限り、自動着陸装置も付けられない」。十八日、県営松本空港の送迎デッキで報道陣に囲まれた田中知事は、地元合意を前提に県としては初めて「滑走路延長」に言及した。

 松本空港の滑走路は二千メートル。だが、標高が六五七・五メートルと高く、気圧が低いため、ジェット機は離陸時に長く滑走する必要があり、「海抜ゼロ地点の空港に換算すれば、千七百メートル余の滑走路の能力」(県交通政策課)しかない。離着陸できるジェット旅客機がMD―87機に限定され、一部路線は百三十四の座席数より定員を減らし、重量を軽くして運航している。

 着陸時に電波で航空機を誘導するILS(計器着陸装置)は、現行滑走路では山などが障害となり、設置されていない。パイロットは目視だけで着陸するため、「日本一着陸が難しい空港」とも言われ、新規路線開設の障壁のひとつとなっている。

 しかし、滑走路の延長は容易ではない。同課は「仮に北に滑走路を延ばしても山が邪魔となり、ILSを導入できるかは不透明」と言う。

 県は九四年のジェット化に伴い、約三百八十億円をかけて滑走路を千五百メートルから二千メートルに延長。周辺の約百四十戸に七億円余をかけ、サッシの二重化などの騒音対策を施した。

 「さらに膨大な投資が必要な滑走路延長を、公共事業見直しを掲げる知事が考えているのか」と首をひねる松本市関係者もいる。

 「滑走路はもう延ばさないという条件で、拡張に応じた。再度の延長は考えられない」。地元の地権者会長も務めた岩垂今朝重・笹賀地区空港対策特別委員長は、拒否の姿勢を示した。

 【運用時間延長】

 運用時間は、県と地元の協定で午前九時―午後五時の八時間と決まっている。時間延長は「市町村長が地域を歩いて回るほどの決断があれば、県も決断する」と知事。協定見直しは地元主導で行うよう、松本市などにボールを投げた形だ。

 時間延長は、地元側が要請してきた対策だ。松本広域圏の十九市町村長は十六日の知事との懇談会でも、時間を前後一時間ずつ延長するよう要請した。ただ、知事の考え方について、有賀正・松本市長は「知事と一緒に地元に入りたい。知事は早く交渉に来るべきだ」と協力する意向を示す半面、「住民が協定を結んでいる相手は県。市が単独で交渉に入るわけにはいかない」と県の出方を見る考えも示す。

 同空港で運航している日本エアシステム(JAS)長野支店の牧田正義支店長は「ダイヤ編成の幅が広がれば、利用率を上げられる可能性が出てくる。滑走路延長も含め実現させてほしい」と歓迎の姿勢だが、地元住民には「時間延長で、本当に松本空港の利用者が増えるのだろうか」と冷めた見方もある。

 【今後の検討は】

 見直し論議は今後、県が設置する検討委員会にゆだねられる。県交通政策課は「まず滑走路や運用時間の延長も含めた前向きな空港の将来像を模索したい」と話す。

 九日、長野市で開いた中部経済連合会との懇談会。知事は、二〇〇五年開港予定の中部国際空港(愛知県)と松本空港を結ぶ小型航空機の就航を要望。以前は、県内から広島や長崎に行く修学旅行で同空港を利用してもらう提案もしていた。

 しかし、活性化策が「机上の空論」に終わる心配もある。県、市町村、地元住民、航空会社…。それぞれの思惑が一致せず、それぞれが立場を強調し合うだけで論議が前に進まないと、次は存続の是非の検討に入る可能性もある。(菊池憲生、野沢哲也記者)

(2001年5月19日 信濃毎日新聞掲載)