2021.02.05

一本一本「きれいだね♪」 ムダ毛眺めるムダ時間

「ムダかどうかは、自分で決める。」

というコピーのついた広告。きれいな女性が腕をあげ、脇毛を露にして微笑んでいた。

 その脇毛は橙色に染められている。

 近年、体毛に対しての美の常識を見直そうとする動きが活発だ。そんな中、同棲中の彼女が全身脱毛をすると申し出た。なるほど、彼女にとって体毛はムダという判断が下されたわけだ。

 特に咎める理由もなく、焼ける毛穴に手を合わせ肌の平安を祈ることに終始していたわけだが、後に思わぬ実害があった。

 それは、以降カーペットをコロコロしてくっついたちぢれ毛は、全て俺のものなんだと痛感すること。

 現在、同棲中の人たちに伝えておきたい。

 パートナーがツルツルになるということは、引き換えに自分の正体が、妖怪ちぢれ毛おとしなのだ、という事実を突きつけられることだ。

 毛の成分はタンパク質だと聞いたことがある。タンパク質といえば卵。本来は鶏になるはずの命が、食べられてちぢれ毛となり今、テープにくっついている。

 なんと儚い命の果て。

 哀愁を感じながら凄まじい量の毛がくっついているテープをしみじみと眺める。

 その一本一本は見つめれば見つめる程に、個性的で目が奪われる。うねうねと曲がっているもの、太さがいびつなもの、ひじきと見間違う程に濃く存在感のあるもの。

 不意にSMAPの「世界に一つだけの花」が脳内に流れる。

「ひとそれぞれ好みはあるけど どれもみんなきれいだね」

 たしか中居くんのパート。そう歌うSMAP自体も一人一人が強い個性を持つグループだった。

 バンドも同じくだが、強烈な個性を持つ人間たちが一つの集団として活動するのは簡単なことではない。遺恨だらけに見えたSMAP解散は、人間的にもギリギリまでやり切った故に見えた。

 あれから4年が経つ。

 月日の流れの速さに圧倒されながら、なんとなくちぢれ毛の中で、最も個性的な5本を指で剥がす。それを床の上に並べ、どれがキムタクかな、なんて考えてみる。

 そんなことをしているうちに1時間が経っていた。

 さてこの時間、誰かからすればムダな時間だ、と言われるかもしれない。だけどあの広告と同じ「ムダかどうかは、自分で決める」のだ。

 確信を持って言いたい。

 誰かにとってムダに見えるこの時間は、俺にとっても確実にムダです。

 お察しの通り、コロナ禍でライブがなくて暇なのだ。

 飯食って、風呂入って、毛を落として、暮らしている最近。早く戻ってこい日常。

【写真説明】挿絵:MOROHA UK

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