育児の苦労知らぬ自分 ちち見えない服どこに
ラジオで育児奮闘中のお母さんからメールを貰う。その流れで「育児は本当に大変ですからねぇ」と口にしていた。その後、思う。独身の俺に何がわかるというのだろう。そこには、男が育児に対し不用意な発言をすると叩かれるという世相を鑑みて、こう言っとけば安全だという打算があった。情けない話だ。
そんな情けなさをさらに思い知る出来事があった。
うちの姉は美容師で、昔は俺に対しても厳しいファッションチェックをする程に洋服好きだった。
今は子供を産み、仕事、子育てと奮闘している。
そんな姉に、買い物する時間もないだろう、と服を買うことを思いついた。早速、姉が好きなブランドの店へ。
ここだけの話、俺は一人で女性向けのお店に入ることに対して、まんざらではない気持ちを持っている。
それは女性店員さんに対し「プレゼントを買いに来た優しい男なんです」というアピールができるからだ。
さらには若干の戸惑いを演出したりする。それにより
「あの人、慣れない場所へ勇気出してプレゼント買いに来てたね。すてき。私の彼氏もそれくらいの優しさがあればなー」
と閉店後のバックルームで話題になるかもしれない、そんな妄想ができるのだ。
イイ男ヅラをしながらラックにかかる服をめくる。だがやはり女性ものを選ぶのは難しく、せっかくなら欲しいものを、と思いいったん店を出て姉に電話をした。
「どうした? 電話珍しいね」
姉は早口だった。
「今、忙しい?」
と聞くと
「忙しい。でもまぁ大丈夫だよ。何?」
とまた早口で答えた。
この少し会話の間にも子供の叫び声が電話の向こうから聞こえる。その騒々しさに圧倒されつつ
「最近、欲しい服とかある?」
と尋ねる。すると姉は間髪入れず
「胸元を引っ張られても、ちちがみえない服」
と答えた。
「ちち⁉」
「そう、ちち」
俺がその言葉の意味を理解する頃に、子供の叫び声が泣き声に変わった。そして
「ごめん、また時間ある時に」
と姉は電話を切った。
色やデザインではなく、とにかく子供に引っ張られても首元が伸びない丈夫な服。その店では探しても見つからなかった。帰り道、的外れな服を選びながら自分に酔っていたこと、猛烈に恥ずかしくなった。子育ての大変さ、今でも本当の意味ではわかっていないだろう。であれば謙虚であるべきだ。謙虚とは育児について問われた時、歯切れが悪い言葉しか持てない自分を受け入れることだと思う。仕方ない、それが今の自分だ。
【写真説明】原宿での配信ライブにて=2月24日(PHOTO BY MAYUMI-kiss it bitter-)
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