2021.05.07

お洒落を諦めない 「似合うの向こう側」へと

「こんなに似合う人は初めてです」

 試着した俺を見て、ありがちな社交辞令を店員が口にする。でも、多分これはマジだ。正直、俺自身過去イチの手応えがある。生まれて初めて

「俺が買わないでどうするんだ!」

という使命感すら生まれた。

 翌日、バンドの練習に早速その服を着て行く。スタジオでは相方のUKがスマホを眺めながら、コンビニのスパゲッティをすすっていた。俺は新しい服についてのコメントをもらうべく、UKの前に立ち背伸びを一つ。しかし、全くこちらを見てくれない。数回の咳払いも虚しく、ついに自ら

「なぁこの服どうよ?」

と尋ねてしまった。同時に

「似合うじゃん」

に対して感謝をのべる準備をした。ついにこちらを見たUK、しかし麺を頰張った口からこぼれたのは

「くじょうぬ」

という小さな声だった。聞き取れなかったので

「え? なんて?」

と聞き返すと、UKは口に入っていたスパゲッティを飲み込んで、今度はハッキリとした口調で言った。

「牧場主みたいだわ」

 そして再び麺をすすり始めた。

 俺は固まった。だがすぐに、そんな訳ねぇだろ! と思い直しガラスに映る自分を見た。

 すると

(牛っこは檻さ閉じ込めず、自由に歩かすだよぉ。そうすっとうんめぇ乳だしてくれっから)

 はっ、幻聴?

 だが確かにそんな台詞を口にしそうな男がそこにいる。これ誰?

 残念ながら、それは俺だ。

 UKの言葉が世界の色を変えた。鋭い洞察力に的確な表現。そこには牧場主が立っていた。立ち尽くす俺にUKは使い終えたプラスチックのフォークを手渡し

「ほら牧草を集める道具。ちっちゃいけど」

とニヤリと笑うのだった。

 ポケモンで言えば自分は岩タイプかなぁ、という自覚のある男達へ伝えておく。我々はオーバーオールがめちゃくちゃ似合う。だがあまりに似合い過ぎる。言うならば「似合うの向こう側」へ行ってしまいがちだ。似合うの向こう側、それはもはやユニフォーム。俺がオーバーオールを着る、それはラガーシャツにヘッドギア、ベースボールシャツにヘルメットと同義なのだ。もはやお洒落ではなくガチ。ガチはお洒落ではない。

 洋服に苦汁を飲まされるのは何度目だろう。この先もきっと厳しい戦いが続く。しかし俺は諦めない。だって誰かが言ってた。お洒落は我慢だって。多分、意味はちがうけど。

【写真説明】2021年春、東京都世田谷区にて

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