デカいやつこしらえよう
「ライブに大きいも小さいもないので、別に特別な思いはないです」
5年前、初めてのワンマンライブを控えインタビューに答える俺がいた。
しかし本番当日の朝、洗面台の前で
「イッヒッヒ、口では強がっても体は正直だなぁ」
と声が響く。
声の主は鼻の頭に出来た真っ赤なニキビだ。思わず「闘魂」とでも書き添えたくなる程に赤い。そして芋でも埋まってんのか、ってくらいにボコッと腫れている。
それを見てふと昔、雑誌にあったニキビ占いという特集を思い出す。鼻の頭はなんだろう、と気になりネット検索すると鼻の頭は金運アップのニキビらしい。
金運! やったー! とは、当然ならない。人の人生と毛穴を弄ぶのもいい加減にしろ、と思う。これで宝くじ売り場にダッシュするようなバカにだけはなるまい。
鏡を見つめ、力なくため息をつく。俺はいつもそうだ。
肝心な時に必ず、顔に何かできものが出来るのだ。
エッセイ本の表紙撮影の時もそうだ。その時は編集者が
「画像修正で直せますよ」
と言ってくれたのに
「別にそのまんまでいいっすよ」
とカッコつけてしまった。ただぶっきらぼうな男らしさを演じたくなってしまったのだ。本当は気にしてるくせに。
ただ仮に加工で消してもらったとしても
「真実を誤魔化した人間が一体、どんなうたを歌えるんだろう」
などと思い悩むことはわかっている。開き直ることもできず、かと言って隠しきる覚悟もないのだ。
ライブはいつだって、そんな俺のまま、ステージに飛び降りるしかない。
そして思い知るのだ。
誰も俺の顔なんて見ていないことを。
音と言葉にしか用ないよ、と言わんばかりに俺が髪を伸ばそうと、顔を芋畑にしようとなんの反応もないのがMOROHAのお客だ。
それが良いことなのか、悪いことなのかはわからないけれど、少しムカついている。
そしてその何倍もありがたいと思っている。
あなた方のおかげで顔面を存分に歪ませて、汗を垂れ流して剥き出しのラップが出来ている。
そんなことを十数年続けた結果、このたび2022年2月11日(金曜、祝日)に初となる日本武道館で単独公演を開催することになった。
過去イチでかいステージで、恐らく過去イチデカいできものを携えて舞台に立つことになる。
せっかくなら一番後ろの席からも見えるくらいに、デカいやつこしらえてやろうと思っています。
見つけると金運アップするらしいよ。
【写真説明】2021年7月、渋谷でのライブにて。 (撮影:MAYUMI -kiss it bitter-)
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