2021.09.03

人の目を気にしない

日差しが翳り始めた8月の夕方、公園にて。

「あ! UFOだ!」

そう言って5歳になる友達の息子は空に向かい指さした。

 しかし、それはライトを点灯させながら飛んでいる飛行機だった。

「いや、あれはね」

と口にしかけて考える。

 彼にとってはUFOなのだから、それでいいじゃないか。その方が夢があるし。

 でも待てよ。

 ここでいう夢ってなんだ? 本当のことを知らないままでいることか? 試しに、本当だねぇUFOだねえ、と膝を曲げて笑いかける自分を想像する。なんだか子供をバカにしているような気がする。

「うおー! UFO! UFO!」

と興奮して跳びはねるその姿を見て、覚悟を決める。

 俺はMOROHAのアフロ、真実をラップし続けた男。そんな脳内ナレーションを入れながら口を開く。

「あのな、残念だけどあれはUFOじゃないよ」

 キョトンとした大きな瞳が俺を撃つ。純粋で清潔な黒目は力強く、あまりに心に触れる。その柔らかな圧に思わず目を逸らす。空を行く点滅を見つめ、言葉を続ける。

「あれはさ、飛行機なんだ。宇宙人じゃなくて、人が乗っているやつ。でもUFOや宇宙人もすごいけど、人が鉄の塊に乗って空を飛べるってことも、俺は同じくらいすごいことだと思うんだ」

 薄紫色の空に星が一つ二つ、煌めき始めていた。

「きっと最初に空を飛ぼうとした人は笑われただろうね。でもその好奇心があったからこそ今飛行機は飛んでる。だから、今日のはUFOじゃなかったけれど、それでも」

とここまで喋り、もう一度彼を見据えた。見つめなきゃいけない、そう思ったのだ。

 そして眼差しは捉えた。

 彼がてんとう虫を口に入れようとしている姿を。

「ちょ! ちょっと待て!」

慌てて手を掴むが時既に遅し。金メダルをかじるどころの話ではなく、完全にイン。

 歌舞伎のごとく口を一文字に結んでロックし、あぐあぐと口を動かす彼に

「ああっ! 飲むなよ! ぺっして! ぺっ!」

と必死で叫ぶ。

 ぺっ、と吐き出した彼は

「苦かった!」

と満面の笑みを浮かべた。

慌てて水道へと連れていき、うがいをさせる。

 無邪気さは驚異だ。

 俺の話の退屈さを察知し、即座に次の興味にのめり込める素直さ。そして、虫ってどんな味するんだろう、という好奇心に突進する力、そこに人の目を気にするなんて発想はない。伝えようとしたことは既に彼の中にあった。

 俺もなくさないようにしたい。

【写真説明】2021年8月、渋谷でのLIVEにて。(撮影:MAYUMI -kiss it bitter-)

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