本当にほぐすべきは...
マッサージ店にて。
施術師に
「お客さん、かなりこってますよ、これは相当に酷使しましたねぇ」
と言われ
「あー、そうですか、ちょっと忙しかったからなぁ」
と答える。
語調こそ浮かないものの、心の中では満更ではない。(そうかやっぱり俺はプロが驚くほどに体を酷使しているんだな)と、闘う自分というやつに酔っているのだ。お金を払い時間を割いた甲斐があった、としみじみ思う。
だがしかし、同時に一つの疑念が生まれる。これは俺を喜ばすための嘘なのではないか。もしも
「お客さん、こってないですね! 健康そのものですよ」
などといきなり言われたら、じゃあ来なくてよかったじゃないか、と損した気持ちになることは間違いないし、あんまり働いていないやつ、という烙印を押されたような気がする。
そうなると施術師のサービストークの可能性も考えられる。商売である以上、十分にあり得る話だ。
本当のことを、真実を、確かめてみたい。
俺はそこから1週間、身体を大いに休めることにした。酒を控え、体を酷使しないよう十分に睡眠をとり、ゆっくりと風呂に入る。その後はストレッチ、なるべく出かけずに家でゆっくりと過ごした。アロマオイルを焚き、リラックス。スマホを長時間使うことも避けた。
そして1週間後、腕を回しても腰を捻ってもなんの違和感も引っかかりもない。体調は万全、体は少しも疲れていない、よし!いざマッサージへ行くぞ! という些か矛盾したモチベーションを持って家を出る。さぁ真実の扉をいざ開けん―。
帰り道、背中を丸めた男が一人。心の中は怒りに燃えていた。
絶対に許せない、許してなるものか。
誰を?
俺を、だ。
体を触るなり施術師は晴れやかに言った。
「すごく良くなってますよ! よかった!」
その声は安堵に満ちていた。親身に心配してくれていたことが痛いほどに伝わってきた。同時に俺は猜疑心に支配され続けた1週間を悔いた。
なんと情けない、体より先に疑り深いその心をほぐせ!と自らに叱責し、マスクの中で歯を食いしばる。
だがしかし、再び疑念が湧きあがる。もしやあの言葉は1週間前の施術の成果を実感させ、満足感を与えるためのものだったんじゃないだろうか。商売である以上、十分にあり得る話だ。
こうして俺は真偽を確かめるため、全身を酷使し、筋肉をガチガチにする1週間を始めるのだった。
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【写真説明】ドーナツ屋にて(東京都内・11月)
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