俺を救う精神のギャル化
俺の出身校、上田染谷丘高校は地域では一応、進学校と言われている。皆そこそこに賢かった。
そして、俺一人が飛び抜けてアホだった。試験の学年順位はいつも下から3番目。下には下がいるもんだな、と安心していたらその二人は登校拒否で試験を受けていなかった。
実質、最下位。
こうなると開き直って笑い飛ばしたいのが俺の性。皆に
「どれだけ落ちても下には俺がいるぞ! まさにセーフティーネット! 網男と呼んでくれ!」
などと言い回っていたが、当然シラケた顔で冷たい視線を向けるだけだった。
そんな中、二人だけ面白がってくれる女子がいた。
「網男、まじウケる~」
と笑う彼女達はリサとナオミ、我が校に生存するただ二人だけのギャルだ。
日サロで焼いた肌、金髪、ルーズソックス、真面目な校風の染谷においてどこにいても浮きまくっていた。彼女達は厳しさで恐れられていた屈強な体育教師に対しても
「おはー! ナオミだよ~! ねー今日さむくなーい?」
と無警戒に飛び込み、生活指導で金髪をどれだけ注意されても
「やだ~リサ傷ついちゃった~ストレスで髪ピンクになっちゃうかも~デニッシュ食べよっと」
と受け流していた。
あの時に見た彼女達を、俺は憑依させることがある。
例えば、大物ミュージシャンの先輩に挨拶をする時はナオミの出番だ。
楽屋の扉を開けた瞬間に
「おつかれさまでっす! アフロっす! よろしくお願いしまっす! あ! 今日のケータリングはカレーがめっちゃうまかったすよー!」
と、フランクな話題をぶっ込む。
これは意外と大切なサバイブ術で、へりくだったかたい挨拶は壁を作ってしまう上に、自分自身に対して、この人には敵わないんだ、と思い込ませてしまう。
あくまで大先輩でも同業者、筋は通しつつも下になってはならない。
リサの出番は自分の音楽を茶化されたり、罵られた時だ。傷つけることを目的にしている相手に対し、論理的に言い返そうとすることは自分の心を消費するだけ。だから
「やだ~、アフロ傷ついちゃった~ストレスで髪ピンクになっちゃうかも~豚まん食べよ~」
とコンビニに走ることにしている。
これらを俺は精神のギャル化と呼んでいる。ギャル化した俺はしたたかで、たくましい。平凡で小心者の俺を存分に助けてくれる二人のギャルは、心の中であの時のままにバチッとメークで声を上げ笑っている。
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【お知らせ】1月7日付本紙朝刊芸能面に、インタビュー連載「2心同体」㊤ MOROHAインタビュー 武道館ライブへの思いは? を掲載しました。こちらもご覧ください。
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