昨年10月の台風19号災害で決壊した長野市穂保の千曲川堤防の強化工事が進む中、戦国武将、武田信玄ゆかりの「長沼城」土塁跡の保存が危ぶまれている。長沼城をしのぶ唯一の遺構だが、コンクリートブロックで堤防のり面を覆う計画地内にあるためだ。住民からは保存を求める声も上がっている。
城は武田氏滅亡後、何度か領主が代わり、江戸時代の1688(貞享5)年、長沼藩の廃止で取り壊された。1742(寛保2)年の「戌(いぬ)の満水」などの度重なる水害で痕跡もほぼなくなったという。
地元の長沼歴史研究会によると、土塁跡は幅約8メートル、高さ約2・6メートルで小さな丘のよう。本丸、二ノ丸を囲むように三つ確認されている「三日月堀」のうち、南側の一つにあったものの一部とされる。
千曲川堤防は、本丸や二ノ丸があった辺りの上に築かれ、土塁跡はのり面に接している。堤防を越えた洪水がこののり面を削ったことが決壊の主因とされ、国土交通省千曲川河川事務所(長野市)は、のり面をコンクリートブロックで覆う工法を採用。2027年度の完成を目標に、土塁跡も含む前後7・5キロ区間の強化工事を進めている。
土塁跡には地域を疫病から守るという「天王宮(てんのうみや)」のほこらがあり、「天王さん」と呼ばれて住民に親しまれている。文化財や史跡には指定されていないが、同研究会会長の笹井妙音さん(長野市津野)は「長沼小の児童が授業で訪れるなど、地域の歴史を知る上で貴重な遺跡。城下町として栄えた長沼の歴史を後世に伝えたい」と話す。
ただ、家や命を守るために堤防強化を優先してほしい―と話す住民も多い。自宅が全壊した笹井さんも堤防強化の意義を肌で知るだけに、「堤防と共存できる保存方法を探ってほしい」と求める。千曲川河川事務所はこうした住民らの声も受けて土塁跡部分の施工を見合わせ、「地元の意見を聞きながら今後調整したい」としている。
2020年6月14日
「長沼城」土塁跡 残せるか


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