昨年10月の台風19号災害で水に漬かり、保全が進められている長野市豊野町の正見寺所蔵の古文書から江戸時代の訴状約180点が見つかったことが15日、分かった。主に天保年間に町人が江戸の南町奉行所に差し出したものとみられる。奉行所の文書がなぜ信州にあったかは謎だが、江戸期の町の暮らしや役人組織など、さまざまな発見につながる可能性もあるという。
確認した信州大人文学部の山本英二教授(59)=歴史学=らによると、訴状は1835(天保6)~41年のものに集中。江戸・麴町の髪結床の賃貸に関する金銭トラブルを訴え出たものや、町(自治組織)の運営に関わる有力町人「月行事」たちがキリスト教を信じたり賭け事をしたりしないと誓約した内容などがある。
正見寺の工事に伴い長野市下駒沢で一時保管していた昨年、台風で被災。市立博物館に相談し、被災資料の救出・保全を行うボランティア団体「信州資料ネット」が乾燥、整理をしていたところ、ネットの事務局を務める山本教授らが貴重な資料と確認した。
訴状の宛名は、江戸の町奉行所を意味する「御番所」。一部文書の紙の接ぎ目に「南番所」の印があり、南町奉行所宛てと分かった。同奉行所は江戸中期の享保年間、名奉行とされる大岡越前守忠相(おおおかえちぜんのかみただすけ)が活躍したことで知られる。
天保10年に町人の「茂吉」が差し出したとする訴状は、店子(たなこ)の「重助」に対する「火附盗賊改(ひつけとうぞくあらため)」からの呼び出しに応じる―との内容。放火や泥棒などの罪を取り締まる火附盗賊改と、町奉行がどう連携していたかはあまり知られていないといい、山本教授は「両者の関係を知る上でも面白い資料」と見ている。
山本教授によると、江戸時代の文書は戊辰(ぼしん)戦争や関東大震災、東京大空襲などで多くが失われた。まれに地方で見つかるが、一度に大量に出ることはなかなかない。「南番所」の押印自体も珍しく、奉行所での文書受理や管理の仕方などを知る手掛かりになりそうだという。
窪智紹(くぼちしょう)住職(72)は「不思議だがありがたいこと。研究に期待したい」と一式を市立博物館に寄託。既に県外の研究者らが視察に訪れ、注目が高まっているといい、山本教授はさまざまな分野の専門家が関わり、研究が進むことを期待している。
2020年10月16日
豊野に江戸の町奉行訴状 被災の古文書から180点

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