信毎 Housing Station
県内マンション完売御礼次々 価格上昇でも中心市街地人気
2021年12月19日(日)

 県内の新築分譲マンションの着工戸数が2020年度に571戸となり、09年度以降最多になったことが18日、県への取材で分かった。長野市、松本市の中心市街地の物件は、完成を待たずに完売する例が相次ぎ、需要は旺盛。開発業者などによると、一戸建てに住む中高年層が移り住む例が目立つ。建築コストの高騰もあり販売価格は上昇しているが、引き続き業者の土地探しが活発な状況だ。

 県建築住宅課のまとめによると、県内の分譲マンションの新規着工戸数は08年度に900戸だった。08年のリーマン・ショックの余波で09年度に大幅に減り、10年度にはゼロに。その後徐々に回復し、20年度に500戸を突破した。21年4~10月は計171戸だった。

 20年度の市町村別では、長野市が最多の197戸で、次いで松本市が193戸。2市で全体の68%を占める。上田市の124戸、北佐久郡軽井沢町の57戸が続く。

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 長野市中心市街地の同市南石堂町に新設された店舗兼マンション「グラディス南石堂」。今年夏に入居したある夫婦は、夫(76)の運転免許返納を機に、北安曇郡白馬村から転居した。「体の自由が利くうちに、車なしで暮らせる場所に引っ越そう」と話し合ったという。

 もともと2人は東京に住んでいたが、妻(65)が47歳の時に同村に移住し、スキーのインストラクターなどをしてきた。妻は今の暮らしについて、「利便性が高く、少し歩けば自然がたくさんある。ちょうどいい街」と満足げだ。

 建設したマリモ(広島市)は04年以降、長野市内で8棟を手掛け、このうち1棟を建設中。松本市内でも7棟を手掛ける。同社甲信越支店(長野市)は、長野市内のマンション需要について「供給量を上回っている」とする。

 入居者の世帯構成は、夫婦2人暮らしが最多。郊外の一戸建てに住む中高年夫婦が、子どもの独立後、便利に暮らせる市街地に住み替える例も目立つ。数は少ないが、新型コロナウイルス下でリモートワーク(遠隔勤務)になったのを機に首都圏から移住する人も。その多くは、県内出身者や学生時代に住んだことがある「地縁のある人」という。

 ただ、子育て世代の購入は減少傾向。人件費や資材価格の高騰で販売価格が上がり、高騰の要因の一つとされていた東京五輪が終わった現在も、高止まりしていることが背景にありそうだ。

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 現在、長野市街地で2棟を建設している穴吹工務店(高松市)の物件は、10年ほど前に比べて3割増しになっており、3千万円台が中心。それでも売れ行きは好調という。

 入居者は主に地縁がある人で、40代の単身者やカップルらが3~4割。最近増えているのが60代以上で、1~2割を占める。同社信越支店(長野市)の田頭竜太・開発営業課長(45)は「一戸建てだと手に入らないような好立地のマンションが選ばれる」とする。

 タカラレーベン(東京)は長野市内で4棟を建設。中には8400万円台という高価格帯の物件もある。担当者は「中心部の物件ほど、シニアの顧客が増えている」と説明。首都圏を中心に供給してきた開発業者の地方進出が活発化しているといい、「長野駅徒歩5~10分圏内の土地は非常に希少」と話す。

<背景の世帯数増、30年までには頭打ち 需給潮目、変わる可能性>

 マンション需要が高い背景には、世帯数の増加があるとみられる。ただ、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、県内の世帯数は2030年までに減少に転じる見通し。当面は建設ラッシュと人気が高い状態が続きそうだが、世帯数の増加が頭打ちになった段階で需給の潮目が変化する可能性がある。

 「3、4社の開発業者が、松本市内の不動産業者に土地の情報提供をひっきりなしに求めている」。県宅地建物取引業協会中信支部(松本市)の清沢進支部長(62)は明かす。まとまった土地を確保しにくい制約はあるが、当面は市街地のマンション開発は続く見通しだ。

 地方都市でのマンション需要について、不動産経済研究所(東京)は「リーマン・ショック以降、供給の少ない時期が続き需要がたまっていた」と分析。世帯分離の進行もマンション志向に拍車をかけ、子どもが独立した中高年層や、経済的にゆとりのある若い世帯が市街地のマンションを選ぶ傾向があるとする。

 20年の国勢調査によると、県内の人口は15年と比べ2・4%減ったものの、世帯数は逆に3・1%増の83万2千世帯。県内のある金融関係者は「かつては親の住宅に同居するのが一般的だったが、若い世代の世帯分離が進行。近くに家を建てる人が増えたが、近年は一部が利便性を求めてマンションを購入し、郊外の中高年世帯もマンションを選ぶようになった」と指摘する。

 ただ、県内の世帯数はいずれ減る。不動産経済研究所は「リーマン・ショック前に建てられた中古物件が売り出されるようになれば、新築物件には今ほどの需要はなくなる」とみている。

 市街地のマンション増加について、東京都市大の中村隆司准教授(土地利用計画)は「市街地の人口が増え、活性化の重要な要素になる」とする一方、景観との調和や、元の居住地域で築いた人間関係の断絶、マンションの老朽化といった課題を挙げる。「行政も協力し、課題に対応しながら居住を促進すべきだ」と指摘している。

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