行政権限の肥大化をこのまま認めるわけにはいかない。
政府が、新型コロナ特別措置法改定案の概要を示した。緊急事態宣言の前段階として「予防的措置」を新設している。
都道府県知事が営業時間の短縮や休業を事業者に「命令」でき、従わなければ過料を科す。
営業の継続をどう担保するのか。責任の所在は明確でない。対応の遅れを棚に上げ、感染拡大の原因は要請に応じない事業者にあると言わんばかりだ。
現行の特措法では、緊急事態宣言下はもとより、宣言発令前でも知事は市民や事業者に外出や営業の自粛を要請できる。強制力はないものの、自治体が応じない店舗名の公表に踏み切り、制裁を伴う形で運用されてきた。
予防的措置は首相が実施期間と区域を公示し、知事が定める。要請から命令に切り替え、事業者が拒めば過料を科す。宣言下でも同様に過料の対象とする。
知事が措置を取らない場合、首相が指示できる規定も設けた。知事も国に措置を求められる。
事業者が感染防止に消極的なわけではない。要請に応え切れないのは、店の営業や従業員の雇用を守れない強い危機感があるからだろう。現に、国が今度の緊急事態宣言で飲食店に用意した協力金は1日6万円にとどまる。
特措法改定案には▽国と地方は事業者への支援を講じるよう努める▽国は必要な財政上の措置を講じるよう努める―との努力義務を盛ったにすぎない。
感染を抑える上で飲食店の協力が欠かせないなら、予算案を大幅に組み替え、給付ではなく十分な補償に回すべきだ。
改定案では「臨時の医療施設」を予防的措置の段階から開設できるようにもした。医療機関や診療所が応諾できる財政支援の拡充がここでも必要になる。
自治体や保健所、衛生研究所の役割分担の見直しも急ぎたい。正確な地域の感染状況の把握、検査態勢の拡充、効果的な市民への情報提供と協力要請を図り、感染を収束に向かわせる体制を整えなくてはならない。
昨年5月の緊急事態宣言の解除後、政府と国会は次の流行に備える時間を浪費してきた。対策が後手に回る焦りから権限拡大に動くとすれば、いかにも短絡的だ。
改定案は来週開会の通常国会に提出される。罰則を伴う私権制限で違憲性は強まる。これを忘れることなく、与野党は導入の是非を慎重に審議してもらいたい。
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