〈社説〉前面に出る改憲 根幹掘り崩される危うさ【参院選に問う】

 現憲法が施行されて75年。自民党をはじめ改憲に前向きな各党がかつてなく積極姿勢を前面に出して臨む選挙である。改憲勢力が衆院に続いて参院でも総議席の3分の2以上を確保すれば、国会による改憲の発議が初めて具体化する可能性がある。

 ロシアによる隣国ウクライナへの侵攻を機に、国防の強化を求める声が高まったことが改憲論の背を押している。国や社会のあり方の根幹に関わる。各党、候補の憲法に対する姿勢を見定めたい。

 日本維新の会や国民民主党を含む改憲勢力は、昨秋の衆院選で議席を増やし、動きを一気に加速させてきた。通常国会の会期中に衆院の憲法審査会が16回開かれたことはこれまでにない。自民や維新が議論の先に立ち、9条をめぐっても討議が行われた。

 岸田文雄首相の意欲的な姿勢も目につく。改憲に取り組むことはまさに私の本意だと語り、国会議員は憲法のあり方に真剣に向き合う責務があると発言してもいる。安倍晋三氏が首相当時、国会は改憲を議論する義務があると述べたことを思い起こさせる。

 自民党は、改憲の取り組みを担う党組織を「推進本部」から「実行本部」に改め、各地で集会を重ねた。国会の論議と国民の理解を車の両輪に例える岸田氏は党大会で、国民と対話し、党是の改憲を成し遂げようと訴えた。

■国会発議を視野に

 参院選の公約では、自衛隊の明記や緊急事態への対応をはじめ4項目を挙げ、改憲を「早期に実現する」と記した。衆院選時の「早期実現を目指す」から踏み込み、国会の発議を視野に入れる。

 連立与党の公明も足並みをそろえるように、自衛隊の明記について「検討を進める」とした。衆院選の公約にあった「慎重に」の文言が消えている。

 前傾姿勢を際立たせるのが維新だ。改憲を公約の柱に位置づけ、憲法裁判所の設置など従来の主張に加えて、9条への自衛隊の規定と緊急事態条項の制定を挙げた。国民民主も、9条について具体的な議論を進める姿勢を示す。

 一方、立憲民主党は、戦力の不保持と交戦権の否認を定めた9条2項の法的拘束力が失われるとして、自衛隊を明記する自民党案に反対すると公約に掲げた。共産党、社民党は改憲に反対する姿勢を明確にしている。

 自民が4項目の改憲条文案をまとめたのは安倍政権下の2018年だ。コロナ禍に乗じて浮上した緊急事態条項の導入論とともに自衛隊の明記がここへきて前面にせり出している。どちらも、憲法を根元から掘り崩す危うさがあることを見落とすわけにいかない。

■前文が記した決意

 強引な「解釈改憲」で集団的自衛権の行使を可能にした安全保障法制によって、自衛隊は任務と活動範囲を大きく広げた。憲法への明記はそれを追認し、歯止めのない軍拡に道を開く恐れがある。

 条文案は、新たに「9条の2」の条文を置いて自衛隊の存在を定める。「必要な自衛の措置をとるため」との文言は、必要最小限度の実力組織という制約を取り払い、集団的自衛権の全面的な行使にもつながり得る。

 政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し―と憲法は前文に記した。かつて日本が無謀な戦争に突き進んだ歴史への痛切な反省に立ってこの憲法はある。

 広島、長崎の原爆の惨禍を踏まえ、「武力なき平和」を目指す徹底した平和主義を掲げた意義は薄れていない。核の脅威を振りかざしてロシアが隣国に侵攻した現実を前に、浮足立つのでなく、戦後日本の立脚点を再確認したい。

■「法の支配」揺るがす

 緊急事態条項は、憲法の根本である人権の保障や三権分立を逸脱する権力の行使を、例外状況の下で政府に認めるものだ。大規模な災害、感染症のまん延などによる緊急事態への対応を法律で定めるのとは本質を異にする。

 現憲法はあえて、政府の緊急権限を定める条文を置かなかった。旧憲法が定めていた緊急勅令や戒厳の権限の乱用が、思想・言論の弾圧や軍国主義の台頭に結びついたことが背景にある。

 権力を法で縛り、個人の自由と人権を確保する―。現憲法の基底にある「法の支配」の原理だ。例外規定を設けて権力の縛りを解くことはその破壊につながる。核心を見誤らないようにしたい。

 世論の受けとめは冷静に見える。5月の憲法記念日を前に共同通信社が行った調査では、改憲の機運は「高まっていない」との回答が、「どちらかといえば」を含め7割を占めた。

 主権者である国民の広範な要求に根差して改憲が議論されているわけではない。憲法の根幹をゆるがせにして権力の強化が図られようとしていないか。目を凝らし、それぞれが意思を示したい。

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