乗り越える 障害も、戦火も 聴覚障害陸上 ウクライナの2選手が信濃町で合宿

信濃町でトレーニングするフィリモシキナ選手(左)とウルスレンコ選手=2日午前10時半

■家族の生活に不安募らせる2人 25年国際大会で活躍誓う

 聴覚に障害のあるウクライナの女子陸上競技選手2人が2日、上水内郡信濃町で行われている日本代表選手らの強化合宿に加わった。ともにロシア侵攻後の3月から隣国ルーマニアに避難しており、日本デフ陸上競技協会(横浜市)が招いた。母国の行く末を案じ、家族の安否を気遣いながらの競技生活だが、もともと抱えるハンディも、新たに降りかかった困難も乗り越えて、聴覚障害者の国際総合大会「デフリンピック」での連覇を目指している。(竹越萌子)

 2人はナタリア・ウルスレンコ選手(37)と、リマ・フィリモシキナ選手(36)。5月にブラジルで開いたデフリンピックでは、ウルスレンコ選手が女子砲丸投げで、フィリモシキナ選手が女子ハンマー投げで、それぞれ金メダルを獲得した。

 この日は信濃町の黒姫高原運動施設で早速、日本代表選手らとハンマーや円盤を使ったトレーニングに打ち込んだ。日本人選手にフォームを身ぶり手ぶりで助言。日本人選手の投てきがうまくいくと、ハイタッチをして喜ぶ場面もあった。

 ウルスレンコ選手はウクライナ南東部の激戦地マリウポリの出身。「ウクライナの文化を守りたいが難しい。切なく、やるせない思いだ」。午前の練習後、ロシアの侵攻が続く母国への思いなどについて国際手話などを交えて訴えた。

 父母はロシア軍に包囲される混乱の中で逃げられなかったという。現在はウクライナ国内の別の場所にある防空壕(ごう)で暮らしている。インターネットで連絡は取れているものの「長い間会えず、とても寂しい」と表情を曇らせた。

 フィリモシキナ選手は、2014年にロシアに併合されたクリミアと隣接する南部ヘルソン州出身。ロシアの侵攻後、約2100キロの道のりを車で1週間ほどかけて避難した。道中は「(避難者の車で)大渋滞し、車の中で寝る生活だった」。家族も何とかルーマニアに避難できたが、母国の惨状を踏まえ「とても悲しい。早く元に戻ってほしい」と願った。

 侵攻の影響で練習道具の調達もままならない2人に、日本人選手らはハンマーや砲丸、円盤を贈った。2人と10年来の付き合いというハンマー投げの森本真敏(まさとし)選手(37)=埼玉県本庄市=は、侵攻が続く中でもデフリンピックで最高成績を収めた2人に感心。「とてもエネルギッシュで刺激を受ける」と話した。

 日本デフ陸上競技協会は安定した練習環境を提供し、日本人選手の競技力向上にもつなげようと、クラウドファンディング(CF)を活用して2人の渡航費や宿泊費を負担。7月に来日した2人は今月15日まで約1カ月間、日本に滞在し、県内では東御市も含めて計1週間、トレーニングする計画という。

 ともに目標は、東京招致の動きがある次回25年デフリンピックでの金メダル獲得だ。ウルスレンコ選手はやる気をむき出しに「東京で金メダルを取りたい」。フィリモシキナ選手は「復興の旗を掲げたい」と、事態の早期収拾を願いつつ自身の活躍を誓った。

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