〈社説〉日中会談中止 米偏重では溝は埋まらぬ

 日中外相会談が、中国側の申し出で直前に中止された。

 ペロシ米下院議長の台湾訪問に反発した習近平指導部は、対抗措置として「重要軍事演習行動」を取ると公表した。

 先進7カ国(G7)外相は「攻撃的な軍事行動の口実として、訪問を利用することは正当化できない」との共同声明を出す。

 中国側は「日本はG7でぐるになり不当に非難」したと主張。日本が認識を改め、行動で示さない限り対話はできないと、態度を硬化させている。

 9月の日中国交正常化50年の節目を前に、両国が歩み寄る芽が急速にしぼんでいる。

 ペロシ氏の訪台が、個人的な政治信条によるのか、バイデン政権と気脈を通じてなのか、意図がはっきりしない。トランプ前政権時から台湾への武器供与、高官や議員の派遣を続ける米国が、台湾情勢を揺さぶっている。

 中国の対抗措置も度を越している。今回の演習は、軍事基地や港湾の封鎖を想定し、台湾を取り囲むように演習区域を設けた。台湾の領海も、台湾海峡の中間線も無視している。弾道ミサイルを含む実弾を発射し、空母や原子力潜水艦まで投入するという。

 矛先を米国ではなく、台湾に向けている。力の誇示は、国際社会が注視する「武力統一」への疑心を深めるだけだ。

 岸田文雄政権の姿勢は定まらない。ペロシ氏の訪台を「政府としてコメントする立場にない」とかわしていた。にもかかわらず、首相はきのう、来日したペロシ氏と会談し、中国に対する懸念だけを表明している。軍事演習を誘発した下院議長の行動には、何らの苦言も呈していない。

 台湾有事を想定した日米の共同作戦計画、中国を念頭に置いた敵基地攻撃能力の保有、国防力の抜本強化…。米国に追従し、軍事と経済の両面で対中国包囲を図る日本の姿勢に、中国はいら立ちを募らせてきた。会談中止は、共同声明だけが理由ではあるまい。

 米中の軍事衝突で、危害を被るのは台湾の人々であり、日本国民も巻き込まれる恐れは強い。安全保障の命題は、紛争の徹底回避にあると言っていい。

 米国も中国も、国内で高まる強硬論を意識せざるを得ない政治事情から、過剰な力の対立に陥っている感が否めない。日本が、安定を欠く米国の戦略と一線を画し、国益にかなう外交構想を打ち立てない限り、中国との関係改善の道筋も見えてこない。

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