今日の視角 なぜ若い研究者を傷つけるのか(内田樹)

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 大学院で指導教員からハラスメントを受けて心に傷を負った女性がいる。教員は退職したが、この教員からも、事件の隠蔽(いんぺい)をはかった大学当局からも謝罪の言葉はなかった。被害者女性は謝罪と補償を求めて訴えを起こした。その女性から「教育とハラスメント」について所見を求められたので、一文を草した。

 大学院に通ったことのある人の多くは教員から「おまえは研究に向いてない」「どうせ専任のポストなんかないのだから、早く別の仕事を探せ」という言葉を投げつけられた経験を持っていると思う。虚(むな)しい希望は早く捨てさせた方が本人のためだという言い訳が成り立つ時に、若い研究者の自尊心と研究意欲を傷つけることを自制できない教員は多い。たいへんに多い。

 私はこういう考え方こそが日本の学術を貧しいものにしてきたと思っている…

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