雪崩、牙むくアンナプルナ〈すぐそこにある未知〉石川直樹=思索のノート
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■用たし中「まさか」の遭遇
入道雲のような雪煙が、自分の目の前で見る見るうちに大きくなっていった。すぐに雪崩が来ていることがわかったが、自分がいる場所とは異なる尾根からの雪崩だったので、ここまでは到達せず、命にかかわるようなことはないだろう、と今までの経験からすぐに考えた。自分はそのときテントの近くにくぼみを掘って、雪の上で用を足していた。用を足して尻を拭き始めたそのときに雪崩が起こる、という漫画のようなタイミングに、自分自身焦った。なんでよりにもよって、こんなときに、と。
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3月末、ぼくはネパール・ヒマラヤの中央部にあるアンナプルナという山に登っていた。アンナプルナは東西50キロにわたって連なる山群で、その中で最も高いアンナプルナ1峰(8091メートル)に登るのが目的である。
標高4200メートルのベースキャンプから、5050メートルの第1キャンプを経て…