サイクリストの憧れ「しまなみ海道」へ輪行。そして飯田の高校生たちとの自転車旅・前編(佐藤秋彦)
列車や船などの公共交通機関を使って自転車を運ぶ「輪行」。自転車による遠方への旅を楽しむ手段だ。これまで機会がなかったが今回、飯田OIDE長姫高校(飯田市)の生徒たちが修学旅行で瀬戸内海を自転車走破する話題の取材として初めて実現した。自分のロードバイクを担ぎ、新幹線などを乗り継いで長野と中国・四国地方を往復した自転車旅を3回続きで紹介する。
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11月9日午前8時過ぎ。現地で借りたクロスバイクで先行して走り始めた高校生たちを追いかけるように、愛媛県今治市のサイクリングターミナル「サンライズ糸山」をロードバイクで出発した。坂道を上ってしばらくすると、姿を現した巨大な吊橋。瀬戸内海の難所として知られる来島(くるしま)海峡に架かる総延長4・1キロ、世界初の三連吊橋「来島海峡大橋」だ。渡り始めると、はるか眼下には瀬戸内の青い海原。ようやくここに来たのだ―。実感が湧き、ペダルを踏む足に力が入った。
■雑談から持ち上がった計画
「冗談でしょ?」
最初は、そんな気持ちだった。
愛媛県と広島県にある瀬戸内海の島々を橋で結び、サイクリストの「聖地」として知られる「瀬戸内しまなみ海道サイクリングロード」。雑誌などで読んで、なんて素晴らしい風景なんだろう―と思っていた。そこへ行けるかもしれないのだ。
7月、本来の仕事で訪れていた飯田OIDE長姫高校で、電子機械工学科2年担任の西村武久教諭(53)と話していたとき、11月の修学旅行で生徒たちが「しまなみ海道」を全員で自転車に乗り走破する計画が話題に上った。「いいなあ…」。思わず口にして、自分が週末になるとロードバイクであちこち繰り出していることを話した。すると、「一緒に行きませんか。ぜひ取材してくださいよ」と西村教諭。面白い。ただ、この時点ではまだ何も決まっていなかった。
8月、NIE(教育への新聞活用)全国大会で松山市を訪れた。羽田から空路で松山入りした際、松山空港への着陸に向けて降下する航空機の窓からわずかに瀬戸内海と、そこを延びる橋が目に入った。「あれが、しまなみ海道か…」。初めて見る風景に、憧れは募る。大会には西村教諭も同行しており、大会参加中も繰り返し取材の話になった。挑戦の期日は11月9日ということも分かった。
「仕事なら、行ってもいいよな…。逆に、仕事でもなければ行けないよな」
腹は決まった。しまなみ海道へ行こう。せっかくだから、相棒(ロードバイク)を連れて。これが初めての本格的な輪行になる。中年ポンコツサイクリストの挑戦が始まった。
■周到に準備、いざ出発
11月8日午前4時。よく眠れないまま起き上がり、改めて荷物を確認。ロードバイクは前日のうちに専用の「輪行袋」に入れて職場に移動させてある。5時過ぎに自宅を出ると、夜空に三日月と金星が上っていた。
歩いて会社に着き、原稿を書くためのパソコンなどを背負いバッグに詰めて最終確認。「お、重い…」。バッグを背負ったまま自転車で走ることになるため、荷物は最小限にしたはずだった。取材機材のほかは少しの着替えだけ。それでもバッグはずしりと背中で存在感を放つ。「大丈夫だろうか」。もう後戻りはできない。行くだけだ。生徒たちと合流するスタート地点の愛媛県今治市を目指し、まず長野駅に向けて出発した。
(読者センター長・佐藤秋彦)
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(さとう・あきひこ)旧北佐久郡浅科村(現佐久市)生まれ。1989年、信濃毎日新聞社入社。上田支社長、運動部長兼写真部長を経て2021年から現職。
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【瀬戸内しまなみ海道】愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶ自動車専用道「西瀬戸自動車道」の愛称。瀬戸内海に浮かぶ六つの島を7本の橋でつないでいる。自転車・歩行者専用道も整備され、世界的サイクリングコースとして知られる。今回挑戦したルートの長さは約70キロ。宿泊施設を備えたサイクリングターミナル「サンライズ糸山」など沿線各地にレンタサイクル施設が設置され、多彩なコースでのサイクリングを楽しめる。
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