「しまなみ海道」起点の今治へ輪行。高校生たちとの自転車旅の準備は整った・中編(佐藤秋彦)
列車や船など公共交通機関を使って自転車を運ぶ「輪行」が、飯田OIDE長姫高校(飯田市)の修学旅行取材で初めて実現した。ロードバイクを肩に担ぎ、新幹線などに乗って長野と中国・四国地方を往復した自転車旅をつづる3回続きの2回目は、長野を出発して愛媛県今治市までの輪行を再現する。
■新幹線による輪行は順調
11月8日、輪行はJR長野駅から始まった。愛媛県今治市に向かうにはまず、北陸新幹線で東京へ。東海道新幹線に乗り換えて岡山に進み、そこから在来線の特急「あさかぜ」で今治に―との行程だ。
長距離移動になる輪行のポイントは、乗車する列車の座席を全て車両最後部の「指定席」にすること。最後部座席の背後にあるスペースに、自転車を入れた「輪行袋」を置く。慣れない旅のため、往復の切符と宿泊の手配は日頃からお世話になっている旅行代理店のM氏に依頼した。
7時45分発の「はくたか552号」に乗車。担いでいた輪行袋を置くと、自転車を固定する予備のベルトで袋と背もたれをつないで揺れないようにする。まずは順調な滑り出し。東京駅で新幹線乗り継ぎ改札を経て、東海道新幹線へ。9時48分発の広島行き「のぞみ65号」に乗り、再び輪行袋を最後部座席の背後に固定した。
新横浜で、2人掛け座席の隣に若い男性客が乗り込んできた。座ると早速、ノートパソコンを開いて何やら操作を開始。視界の端でのぞくと、彼の知人と思われるカップルの結婚式・披露宴の映像が映し出されている。どうやら、一連の映像を編集して1本の作品に仕上げるらしい。彼は映像をこま送りしながらチェックしていく。延々と目に入ってくる披露宴。彼が姫路で降りる直前まで2時間以上続いた。本当に、祝い事をごちそうさま。
■眼前に広がる、初めての瀬戸内海
13時5分、岡山で「のぞみ」を降りた。初めて見る岡山市は静かな街。穏やかな時間が流れていた。乗り換えた在来線の特急「しおかぜ13号」は新幹線から一転、ローカル色豊か。車体は指定席車両がオレンジ、自由席車両は青色に染められている。ここでも最後部座席の後ろに輪行袋を置いたが、新幹線に比べてスペースがかなり狭い。輪行袋だけで埋まってしまい、他の乗客が来たらどうしようか―と心配になったが、幸い他に大荷物の乗客はいなかった。
「しおかぜ」が走る路線は本州と四国が初めて陸路で結ばれた「瀬戸大橋」を渡る。しまなみ海道を走る前日に早くも瀬戸内海を縦断することに気付いた。スマホのマップで調べ、カメラを構えると、巨大な鉄骨で組まれた中を通過する列車の窓から、最初の瀬戸内海が見えた。
乗車中、乗務員から特急列車の利用に関する乗客アンケートを依頼された。用紙に記入しようとすると、なぜかその間だけ列車の横揺れが激しくなる。我慢しながら文字を目で追い、回答を書き込み続けていると、すっかり酔ってしまった。
■今治のホテルに到着、準備は万端か?
15時40分、今治に到着。輪行袋を担ぐためのベルトが肩に食い込み、疲労を感じる。予約されたホテルは今治駅から徒歩2分と近く、助かった。歩いて移動する際、あちこちぶつけたような気がしていたため、分解してある自転車を再び組み立てて、ちゃんと走れるか不安になった。自転車を持ち込める部屋だったので、チェックインを済ませると部屋で自転車を袋から出して組み立ててみた。うん、問題なく走る。
ほっとしたのもつかの間、重大なことに気付いた。自転車で走る際は発汗で水分が失われるため、小まめな補給用に飲料ボトルを自転車に据え付けているが、出発前にマイボトルを洗って干したまま、持参を忘れてしまった。生徒に「水分補給は大切!」と言っていた自分が忘れるとは…。仕方ない、現地でボトルを購入することにした。
事前に電話で取材した、しまなみ海道の情報発信を担う一般社団法人「しまなみジャパン」の事務所がある今治市民会館を訪ね、あいさつ。坂本大蔵専務理事にボトルの相談をすると、「駅前のサイクリングターミナルで『しまなみオリジナル』のボトルを扱っていると思いますよ」。ホテルのすぐ隣にあるターミナルに戻り、1本を購入した。夕飯時になり、駅施設内にある食堂で「鯛の押し寿司」と「かけうどん」。なんとか現地気分を味わった。
これで、走行の準備はほぼ大丈夫―と思いきや、夜明け前に出発した翌日の本番に再びハプニングが待っていた…。
(読者センター長・佐藤秋彦)
【瀬戸内しまなみ海道】愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶ自動車専用道「西瀬戸自動車道」の愛称。瀬戸内海に浮かぶ六つの島を7本の橋でつないでいる。自転車・歩行者専用道も整備され、世界的サイクリングコースとして知られる。今回挑戦したルートの長さは約70キロ。宿泊施設を備えたサイクリングターミナル「サンライズ糸山」など沿線各地にレンタサイクル施設が設置され、多彩なコースでのサイクリングを楽しめる。
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