体験を分かち合った一日は「青春」だった。飯田の高校生たちと「しまなみ海道」70㌔を自転車で激走・後編(佐藤秋彦)
列車や船など公共交通機関を使って自転車を運ぶ「輪行」を経て、修学旅行中の飯田OIDE長姫高校(飯田市)と愛媛県今治市で合流した。ロードバイクを肩に担ぎ、鉄路で長野と中国・四国地方を往復した自転車旅をつづる3回続きの後編は、今治市から広島県尾道市までの「瀬戸内しまなみ海道サイクリングロード」を生徒たちと共に挑んだ自転車走破の記録だ。
■合流地点を目指して夜明け前に出発
飯田OIDE長姫高校の電子機械工学科2年生37人たちと一緒に「しまなみ海道」走破に挑む11月9日。せっかくなら日の出を拝みたいと思い、夜明け前の午前6時に今治駅近くのホテルをチェックアウトした。すぐ隣のコンビニで簡単な食料と飲料を買い、出発地点として生徒たちと合流するサイクリングターミナル「サンライズ糸山」を目指す。
走りだそうとした時、違和感に気付いた。「なんだか暗いな…」。前方を照らすライトが点灯しないのだ。まさか、出発前に自宅で充電(USB式)してきたはずだったのに。確認しなかったのも悪いが、ここに来て…と思う。充電は間に合わないが、行くしかない。幸い、交通量がほとんどない時間帯で、後部のライトは点灯したため、ゆっくりと5キロ先のサンライズ糸山を目指すことにした。しばらく走ると、空が徐々に白んでくる。夜明けが近い。
いきなりの坂を駆け上がり、サンライズ糸山に到着。日の出を期待したが、あいにくの曇り空だった。生徒たちと落ち合う午前8時にはまだ時間があるので、「SHIMANAMI」の文字が立体になった大きなモニュメントの前で「来島(くるしま)海峡大橋」を背景に写真を撮ったり、施設の中をのぞいたり。しばらくすると、英語を話す外国人グループが現れた。しまなみ海道を紹介する映像番組を収録している海外の制作会社らしい。オープニング映像を撮り始めたようで、タレントらしき若い女性がカメラに向かって明るい声でしゃべっていた。
■走行中、落車したM君との出会い
午前8時、大型バスに乗った生徒たちが到着。早速、それぞれ割り当てられた自転車(クロスバイク)とヘルメットを確認する。この先、生徒全員が顔をそろえることはないと判断し、モニュメント前に全員を集めて記念撮影。漂う緊張感の中、生徒たちは何人かのグループに分かれて飛び出した。こちらは「信濃毎日新聞デジタル」に早出しのため記事と写真を送る作業に時間を取られ、気付けば周りに誰もいない。
慌てて荷物をまとめ、生徒たちを追うべく70キロの長い旅路をスタートさせた。
七つの橋のうち、最初に渡る来島海峡大橋の上で生徒の一部を追い越し、止まっては彼らの写真を撮る。「気持ちいいよ」「風景が最高」と声を上げながら走って行く。進むうちに生徒たちのグループは前後に大きく延びて離れ、なかなか見つけることができずに焦りが募る。
大島から伯方島に渡る手前を走っていると、生徒の一人が自転車から降りて道路のスペースに立っている。追い抜いて先を急ごうとしたが、思い直して停車した。「どうした?」と尋ねると、M君(17)は「転んじゃいました」。見ると、はいているタイツの右膝部分が破れ、出血している。
落車か―と、まずは傷の手当て。ドリンクボトルの麦茶を傷口にかけてきれいにすると、タオルでふいた。幸い、骨には異常ないようで、表情は明るい。ばんそうこうを貼ってから再び走りだそうとしたが、転倒した衝撃で自転車の変速機が壊れ、自走できなくなっていた。自転車のレンタル業者に連絡し、代車と交換してくれるよう手配。ここで、自分が記者であることを思い出し、一応写真に。「恥ずかしい~」とM君。大丈夫、自転車に落車はつきものだ。負傷だって旅の思い出になる。後方から追いついた西村武久教諭に後を任せ、先を行く生徒たちを追った。
■両足のけいれんを乗り越えゴール
島にある「道の駅」など途中で何度も休憩し、食事も取り、生徒たちは思い思いに走りながらゴールを目指した。長い行程を走りきり、最後の島になる向島(むかいしま)から渡し船に乗って尾道港に上陸。出発からほぼ8時間近くたち、午後4時近くなっていた。取材しながらの走行は疲労がたまり、終盤は両太もものけいれんに悩まされたが、美しい風景に救われて何とか完走を果たした。
ゴールは、終盤に何度も会った冨内輝(ひかる)君(16)、佐々木大輝君(17)の2人組と一緒だった。ラグビー部員の佐々木君は今月3日の全国高校大会県予選で優勝し、花園行きを決めたメンバー。豊富な運動量が求められるだけに、終盤の上り坂も力強く進む姿には、さすが体力があるなと感動した。冨内君は両太ももが細かくけいれんするほど疲労していたが、絶叫しながら坂道を進む。後にLINEで「足取れた」「手が取れた」と苦しみを表現しながらも「外国人に『イエー』したら返してくれた」と楽しんだ様子だった。
ゴール後、生徒たちと別れて尾道駅近くのホテルへ。フロント脇に自転車を置き、尾道港から「尾道水道」を見下ろす「ハーバービュー」の部屋に落ち着くと、ようやく一息。この日、岡山市から駆け付けてくれた知人と完走の祝杯を上げた。
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途中で遅れた仲間を待っていてくれる優しさ。歓声を上げながら走る下り坂。伯方島の道の駅で、海岸に並んで座り瀬戸内海を見つめる生徒たち。自分が高校生の時に、こんな修学旅行がしたかった。羨望(せんぼう)のまなざしになる自分に気付いていた。自転車旅は、遅れてきた青春のようでもあった。
(読者センター長・佐藤秋彦)
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【瀬戸内しまなみ海道】愛媛県今治市と広島県尾道市を結ぶ自動車専用道「西瀬戸自動車道」の愛称。瀬戸内海に浮かぶ六つの島を7本の橋でつないでいる。自転車・歩行者専用道も整備され、世界的サイクリングコースとして知られる。今回挑戦したルートの長さは約70キロ。宿泊施設を備えたサイクリングターミナル「サンライズ糸山」など沿線各地にレンタサイクル施設が設置され、多彩なコースでのサイクリングを楽しめる。
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