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北海道・厚真町の吉野地区は古くはアイヌ語の地名に由来する「西(にし)老軽舞(おいかるま)」と呼ばれた。明治期、早くから開拓が始まった。住民は「吉野桜」を愛し一致協力の象徴にしてきた。1957年、地名を「吉野」に変えたのもそれにちなむ

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地震による山津波で集落ごと土砂に埋もれた。住民の半数の19人が帰らぬ人に。13世帯のうち11世帯で犠牲者が出た。祭りなどの行事は住民総出。親戚のように支え合ってきた集落だ。助かった住民は「吉野がなくなった」と立ち尽くしていると伝わる

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中川信行さん(62)は町の理事を務め「潤いのある田舎を」と魅力発信や移住者支援に力を注いできた。いつも明るく「太陽のような存在」だった妻の久美子さん(58)とともに亡くなった。町内の40代男性は中川さんがいなければ、町に移住して農業を始める道を開けなかったという

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かつて8千人だった人口は半減。国策に従い開発した宅地は売れず巨額債務を抱えた。区画を広げ自然を残して分譲すると完売し、移住者対策の基盤ができた。人口も社会増に転じた。「犠牲者は皆、宝の人材だった」と町長。喪失感を思えば胸が痛む

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16歳の娘、95歳の祖母と埋もれていた滝本卓也さん(39)は、数年前に継いだ農業が軌道に乗ってきたところだった。自宅のがれきの前には稲穂が色づいた田んぼが広がる。不明者の捜索が終わって昨朝の気温は5・4度まで下がった。収穫する人がいなくなった稲穂が冷たい風に波立った。

(9月12日)

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