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2016年の米大統領選。ワシントン・ポスト紙の記者ボブ・ウッドワード氏の問いにトランプ候補はこう答えた。「本当の権力とは、あまり使いたくないが、恐怖だ」。ウッドワード氏は「恐怖」を11日発刊の自著のタイトルにした

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トランプ氏があるじになったホワイトハウスの内幕を描いている。部下を口汚い言葉でののしる。政権幹部らの度重なる首切りを考え合わせれば、恐怖による支配だ。軍事力の行使も怒りに任せて独断専行しようとする。その情動を周りがなだめすかす

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側近はトランプ氏が見たり署名したりしてはまずい文書を大統領の机から抜き取っていたという。古今東西、恐怖政治を敷いた独裁者は多いが、側近や部下にここまで「無能」扱いされた権力者はそうはいまい。孤立の恐怖におののいているのは、トランプ氏その人なのだろうか

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バリー・グラスナー著「アメリカは恐怖に踊る」によれば米社会は過剰な恐怖が増殖している。頻発する銃撃事件はその投影だ。2001年に起きた米中枢同時テロは「恐怖の文化」に拍車をかけた。イラク戦争に走り監視の目を世界中に張り巡らせた

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〈人々の弱い心を刺激してシンボリックな恐怖をばらまく者には、巨大な権力と金が待っている〉。同書は米社会のゆがんだ構造をこう指摘する。トランプ氏の内面にも投影されているのではないか。ウッドワード氏の新著の衝撃もブラックホールのようにのみ込んでしまうかもしれない。

(9月14日)

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