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あすへのとびら 県の自転車条例 期限区切らず議論深めよ

 県が自転車条例の制定に向け準備を進めている。近く開会する9月県会に骨子案を示し、本年度内に制定する考えだ。

 利用、活用の推進と安全対策強化が2本柱になる。このうち安全対策では、事故に備える保険の加入を義務化するかどうかがポイントだ。

 県民の行動を条例で縛ったり、新たな負担を求めたりすることは可能な限り避けたい。安全は道路環境整備と利用者の自覚で確保できれば理想的だ。

 時間のかかる仕事になる。年度内と時間を区切らず議論して、条例の必要性を含め判断したい。

   <損害賠償は高額化>

 自転車がからむ事故は県内でもなかなか減っていかない。昨年1年間に928件起き、8人が死亡、912人がけがをした。

 歩行者とぶつかる事故も年間10件ほど起きている。損害賠償は高額化する傾向にあり、他県では自転車の側に数千万円の賠償を命ずる判決が出ている。5年前には自転車の小学生が60代女性をはね、重い後遺症を負わせたとして、神戸地裁が保護者に約9500万円の賠償を命じた。賠償責任は加害者が未成年の場合でも生じる。

 保険加入を義務付ける条例は大阪、兵庫、滋賀などの府県で制定済み。ただし未加入への罰則は設けていない。東京都などは加入を努力義務としている。

 自転車利用者が保険で賠償責任に備えるのは大事なことだ。車道の左側を走る、夜はライトをつける、歩道では歩行者優先、といったルール、マナーの徹底と併せて、県民への働き掛けを強めることに異存はない。

 ただし条例で義務付けるかどうかは慎重な検討が求められる。

 自転車保険は各社から出ている。保険料は1台当たり年間3千〜7千円くらい。母親と子ども2人が乗る家庭では最低でも年間1万円ほどの負担になる。

 スピードが出る自転車で長距離のサイクリングを楽しむ人。いわゆるママチャリを買いものに使う人…。乗り方により保険の必要度も変わってくる。一人一人がそれぞれの事情の中で考えるのが本来あるべき姿だろう。

 事故が減らない理由の一つは、安全に走れる環境が整っていないことだ。自転車道は全国で約7300キロ。道路延長に対する比率で見るとオランダやドイツの10分の1しかない。

 自転車レーンがすぐ途切れる、道路の穴がなかなか補修されない…。県が先日、条例制定に県民の意見を聞くため岡谷市と白馬村で開いた会合でも環境整備を求める声が出ていた。

 道路整備を中心になって担うのは市町村だ。全国に目を向けると先進的な取り組みで注目されている自治体が少なくない。

 そのうちの一つ、宇都宮市を訪ねた。2003年に自転車活用の基本計画を作ってから、「自転車のまち」を表看板に掲げて安全対策強化に努めている。

   <先進地の取り組み>

 市道の自転車走行空間は当初1・3キロだったのが、今では44キロになった。市内を歩くと車道の端を青く塗った専用走行帯や、矢羽根型の路面標示が目に付く。空気入れ、工具を備え、簡単な整備ができる「自転車の駅」を51カ所に設置した。自転車ロードレースのプロチーム「宇都宮ブリッツェン」の協力で、学校に出向いて安全教室を開いている。

 自転車が関係する市内の事故はこの6年間で半減した。担当者は「衝突警告装置など自動車の側で対策が進んだことが大きい」と言うが、重ねてきた努力が実りつつあるのは間違いない。

 自転車乗りの間で信州は「天国」と言われているという。標高が高く、空気が乾燥して夏でも走りやすい。起伏の多い地形は自転車スポーツにむしろ適している。乗鞍岳や美ケ原に駆け上がるヒルクライムレースには毎年、全国から大勢が集まる。

 条例を定めるなら、街中で安全に乗ることができる環境の整備に加えて、自転車スポーツや自転車旅行のエリアとして信州の魅力を高める視点を大事にしたい。県と市町村が力を合わせなければできない仕事である。

 自転車活用推進法が昨年施行された。超党派の議員立法による法律だ。利活用を総合的、計画的に進めることをうたっている。国は法の趣旨に沿って、道路整備などで自治体を支援すべきだ。

(9月16日)

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