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ヘイト規制条例 知事の裁量が広すぎる

 排外的な言動を地域社会にはびこらせず、少数派の住民の尊厳と人権を守ることは自治体の責務である。とはいえ、集会の事前規制に踏み込んで行政に広い権限と裁量を認めたことは、言論、表現の自由への不当な介入につながる懸念が大きい。

 東京都議会で成立した人権条例である。五輪憲章がうたう人権尊重の理念を実現するための取り組みとして、性的少数者への差別を禁止したほか、在日外国人らを排斥するヘイトスピーチの規制について定めた。

 柱の一つは公共施設の利用制限だ。どんな場合に制限できるか、要件の規定はなく、「知事が基準を定める」としか書かれていない。白紙委任しているに等しい。

 憲法は、集会を含む一切の表現の自由を保障している。自治体は、公共施設の利用を正当な理由なく拒めない。最高裁は1995年の判決で、明らかな差し迫った危険が具体的、客観的に予見されることが必要とする厳格な判断基準を示している。

 意見表明の自由は民主主義を支える土台であり、公権力による介入は、できる限り避けなければならない。とりわけ事前規制には慎重であるべきだ。都の条例はそのことを踏まえたものになっていない。裁量の広さが歯止めのない介入を招き、目障りな意見が封じられる危うさをはらんでいる。

 条例は対策のもう一つの柱として、拡散を防止するための措置を講じることを定めた。団体、個人名の公表のほか、インターネット上の書き込みや動画の削除要請を想定しているという。

 ここでも、何が差別的な言動にあたるかの判断は知事に委ねられている。一つ間違えば、検閲にもつながりかねない。

 ヘイトスピーチに対して自治体が毅然(きぜん)とした姿勢を見せることは重要だ。悪質な言動を繰り返す団体、個人による集会やデモの規制が必要な場合もあるだろう。ただそれには、厳格な要件を定めた上で、透明性のある判断と手続きを踏むことが欠かせない。

 条例は、知事が判断にあたって学識経験者らによる審査会から意見を聴くことを定めている。乱用を防ぐ仕組みとして機能させていく必要がある。

 施設利用を制限する基準として何を定め、条例を具体的にどう運用するか。議会の審議では見えてきていない。ヘイトスピーチの規制という本来の趣旨を逸脱することがないよう、厳しい目を向けていかなくてはならない。

(10月11日)

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