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「美しい『お早(はよ)う!』」は1919年、中野市出身の中山晋平が初めて発表した童謡だ。相馬御風(ぎょふう)が作詞した歌詞には真っ赤なモミジと小川の情景が鮮やか。女の子が投げ入れた二ひら三ひらの葉が親友が待っている川下の橋に流れ着く

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立冬を過ぎてやっと里山が多彩な紅葉に染まった。タペストリーのようだ。モミジはカエデの別称。日本に20種以上が自生する。栽培は奈良時代に始まり江戸の元禄以降は園芸品種が続々開発された。明治の海外向けカタログには200種が載っている

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「同じ種を植えても葉の色は微妙に異なる。その変化が面白い」と写真家の矢野正善さん(83)。カエデ研究を積み重ねてきた。5年前、奈良県宇陀市に国内外の約1200種3千本を植え、植物園をオープンさせた。日本人が親しんできた美しい色の全てが多様な葉にあるという

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日本の園芸技術は世界に類を見ないが、近年は欧米で日本の品種を改良した「ジャパニーズ・メイプル」の栽培が盛んだ。矢野さんが視察した米オレゴン州の農地は見渡す限りカエデが並んでいた。街路樹や家々の植栽も大半がカエデというほど人気だ

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宇陀市の植物園はこのところ霜が降りるまでになり、昨日の朝にかけ一夜にして大半が色づいた。日中20度近くに上昇する異常な暖かさで葉が乾き、落ちるのは早いという。「カエデは進化の途中。暑さに強い種類も出てきた」と矢野さん。多様性ほど気候変動を生き抜く強みはあるまい。

(11月9日)

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