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鉄剤注射 選手の体をむしばむな

 鉄分の過剰な摂取は成長期の選手の体をむしばみ、選手生命を奪うことにもつながる。高校や中学の陸上競技で、持久力を高めようと鉄剤の注射が横行している現状は、一日も早く改めなくてはならない。

 日本陸上競技連盟は、原則禁止する指針を来春までにまとめることを決めた。全国高校駅伝の出場校には、来年以降、選手の血液検査結果の提出を求める。選手たちを守るため、厳しい姿勢で対策を徹底してほしい。

 鉄剤注射は本来、重い貧血の治療で鉄分を補うのに使われる。血液中で酸素を運ぶヘモグロビンを増やす効果があり、持久力が向上するとして、1990年代から女子の長距離選手らが使うようになったという。

 長距離は体重が軽い方が有利になる。減量のため食事を制限し、不足しがちな鉄分を効率よく取ろうと注射に頼る実態もある。

 注射は、鉄分が直接血中に入るため、過剰摂取につながりやすい。肝臓や心臓に蓄積すると、機能障害を起こす恐れがある。影響は何年にも及ぶ。

 健康を損ね、高校卒業後に伸び悩む選手は少なくない。若くして引退に追い込まれるなど、選手生命に関わるばかりか、日常生活にも支障を来すことがある。

 駅伝の強豪校の中には、指導者が選手に日常的に注射を受けさせているところもあるという。絶対的な力を持つ指導者に選手が逆らえない、部活動のいびつなあり方が背後に見えてくる。

 陸連が対策に乗り出すのは遅すぎた感さえある。現場では早くから問題視する声が出ていた。一昨年公表した「貧血対処7か条」で鉄剤注射の自粛を求めたが、効果があったとは言いがたい。

 指針を行き渡らせ、根絶に向けた取り組みをどう強めていくか。全国高校駅伝以外の大会でも血液検査の報告を求めることは一つの方法だろう。違反があった場合に、出場停止などの処分を科すことも検討すべきだ。

 陸上長距離、体操などの女子選手が直面している健康問題はほかにもある。厳しい練習や食事制限による栄養不足は、無月経の原因になる。女性ホルモンの分泌が減って骨がもろくなり、疲労骨折にもつながる。

 減量の重圧から摂食障害に陥り、心を病む選手もいる。勝つために選手に過度な負担を強いることが当たり前であってはならない。部活動のあり方を関係者は足元から考えてほしい。

(12月25日)

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