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憲法への岐路 空回りの改憲 民意に向き合う政治こそ

 宿願の実現へ、安倍晋三首相が一段と踏み込んだ姿勢を見せながら、改憲の論議は広がらないまま1年が終わる。自民党は、自衛隊の明記をはじめ4項目の条文案をまとめたものの、国会には提示できなかった。

 改憲は国会が発議し、国民投票で決める。国民が権利を実行するために、国会には改憲を議論する義務がある―。1月の参院予算委員会での安倍首相の答弁だ。

 「義務」という強い言葉を持ち出して、政府の長である首相が国会に号令をかけるような発言である。自民党総裁と首相という立場の線引きを踏み越え、改憲を主導するかの姿勢は、その後も目についた。自衛隊の観閲式でも改憲への決意を述べている。

 そもそも安倍首相の主張は根拠を欠く。憲法は、首相や閣僚、国会議員が憲法を尊重し擁護する義務を負うことを定めている。改憲の議論を国会に義務づけるような条文はどこにもない。

 改憲の手続きについては、国会に発議を委ねる一方、内閣の権限には何も触れていない。本来、首相が関与する余地はないということだ。改憲を主張することは妨げられないにしても、国会への介入は避けなければならない。

<ないがしろにし続け>

 首相の座に再び就いて6年。安倍政権は、憲法をないがしろにし続けてきたと言って過言でない。平和主義を変質させたことはその最たるものだ。

 歴代政権が認めてこなかった集団的自衛権の行使を、憲法解釈を強引に変えて容認し、安全保障法制を成立させた。今年改定した防衛大綱の下では、事実上の空母も配備し、任務、装備ともに専守防衛からの逸脱が進む。

 9条だけではない。沖縄では新たな米軍基地の建設が民意を顧みずに強行され、民主主義と地方自治が踏みつけられている。抗議する人たちを実力で排除し、逮捕者も相次ぐ状況は、政治的な意見の表明を封じるに等しい。

 昨年施行された共謀罪法は、幅広い犯罪について、合意するだけで処罰を可能にした。公権力の刑罰権に縛りをかける人権保障の骨組みが揺らいでいる。

 憲法に基づく野党からの臨時国会の召集要求をたなざらしにすることも繰り返された。国会の議論を軽んじ、数を頼んで押し切る独善的な姿勢も強まるばかりだ。

<首相の情念が際立つ>

 自民党の改憲条文案は、首相の意に沿って事を急ぐ間に合わせのものでしかない。党内でも議論は尽くされていない。国会に提示するのはもともと無理がある。

 自衛隊の明記について安倍首相は、任務や権限は何も変わるわけではないと説明する。けれども、安保法制で自衛隊の任務、活動は既に大きく拡大している。

 さらに、条文案の「必要な自衛の措置をとる」との文言は、必要最小限度の実力組織という制約を取り払い、集団的自衛権の全面的な行使を認めるようにも解釈し得る。戦力の不保持を定める9条2項が意味を失いかねない。

 他の改憲3項目は、緊急事態、参院選の合区解消、教育の充実である。どれも憲法を改める理由は見いだせない。災害への対処は現行法で可能だ。緊急事態を憲法で定める必要はない。合区解消も定数是正や法改正で対応できる。

 衆参両院の憲法審査会は今年、実質的な審議ができなかった。与野党の合意を重視してきた慣例に反する自民党の強引な姿勢に、野党は反発を強めている。連立与党の公明党も距離を置く。

 それでも安倍首相は「2020年に新しい憲法を施行したい気持ちに変わりはない」と重ねて表明している。かねて現憲法を「みっともない」などと語ってきた首相の情念が際立って見える。

<主権者の意思を示す>

 それは、国民が政治に求めるものとは懸け離れている。世論調査でも、力を入れてほしい政策の第一に挙がるのは、社会保障や景気・雇用である。期限を区切って改憲を目指す首相の方針に反対する人は半数を超す。改憲は優先すべき政治課題ではない。

 来年は天皇の代替わりを挟んで統一地方選と参院選がある。時間をかけて憲法を議論できる状況にはない。国や社会の根幹に関わる事柄を国会で十分話し合いもせず前に進めるわけにいかない。

 国民投票法にも不備が目立つ。一つは運動資金に制限がないことだ。広告宣伝などで資金力に勝る側が有利になり、公正さを保てない恐れがある。改憲を発議する前提が整っていない。

 憲法は、主権者である国民が国会や政府、司法、地方自治のあり方を定めたものだ。掲げられた理念、原則に立って、民意と人権を重んじる政治こそが求められる。それがおろそかにされ、改憲が無理押しされないか。年明け後も政権の姿勢を厳しく見つめ、主権者として意思を示したい。

(12月30日)

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