長野県のニュース

米南部の国境 常軌逸した壁への固執

 トランプ米大統領と野党民主党の対立が深まっている。

 中米諸国から北上してくる移民集団の流れを、トランプ氏は「侵略」と呼ぶ。国境の危機を声高に主張し、「壁」建設費を予算に盛るよう訴える。民主党は「大統領が危機をつくりだしている」とし、壁を造っても効果はないと反論している。

 予算が成立せず、昨年末から政府機関の一部閉鎖が続き、80万の職員が一時休職や無給勤務を強いられている。

 トランプ氏は、議会を通さず予算を捻出するため、国家非常事態宣言に踏み込む構えでいる。常軌を逸していないか。

 移民の流入を抑えるのなら、彼らが母国を離れざるを得ない原因に目を向け、長期的視野に立って対策を講じる必要がある。

 中米ホンジュラスから数千人の移民集団が北上を始めたのは、昨年10月だった。米国の中間選挙の時期と重なった。

 トランプ氏は「不法なよそ者が流入して街をのみ込むぞ」などと訴え、軍隊を派遣して有権者の危機感をあおった。

 選挙後も「侵略への準備ができていない。家へ帰れ」と、ツイッターに投稿。壁建設費を除いた予算への署名を拒んでいる。大統領再選を見据え、支持層をつなぎとめたい思惑もあるのだろう。

 米国を目指す移民集団は、今に始まった動きではない。

 昨年1〜11月に米南部国境で拘束された不法移民は41万人余を数えた。多くはあるものの、年100万人超が続いた1980〜2000年代に比べると高い水準ではない。近年は親子連れや単身の未成年者が増えている。

 トランプ氏は、国境を通じて薬物や人身売買、性搾取が横行しているとも強調する。米国内や中米各地に拠点を持ち、公職に就く者までを抱き込んだ大掛かりな犯罪組織が絡む。問題は根深い。壁を造って改善するような単純な話ではないはずだ。

 母国での暴力や貧困が、不法移民を生む大きな要因だと指摘されている。米政権は、当事国政府との連携を強め、産業振興や雇用創出につながる経済支援にこそ力を入れてほしい。査証を発給し、正規の移民として受け入れる枠拡大も検討してもらいたい。

 合衆国憲法は、国家非常時の大統領権限を限定している。議会の支持もなく乱用すれば混乱に拍車が掛かる。トランプ氏は政府機関の再開を急ぎ、移民政策のあり方を一から練り直すべきだ。

(1月11日)

最近の社説