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あすへのとびら 人工知能と政治 熟議を進化させられるか

 囲碁のトップ棋士に勝った「アルファ碁」も安泰ではなかった。2年後には囲碁を「独学」で学んだ最新ソフト「アルファゼロ」が登場し圧倒されて敗れた。

 人工知能(AI)の進化が加速している。近未来は、AIが身の回りのさまざまな分野にあふれる社会になるだろう。

 政治や行政も例外ではない。総務省AIネットワーク化検討会議の報告書2016は予測した。

 <2030年ごろまでには、関連する施策・制度についてAIによるオープンデータの分析結果の活用が可能になり、行政の水準向上に役立つ>

 <個人や企業から発信される情報などを活用した将来予測が実現し、より精緻な政策の立案が可能になる>

 政策づくりにAIが導入されたとき議会や住民はどう関わるのか。民主主義の根幹につながる問題を置き去りにしてはなるまい。

   <吟味と説明責任>

 既に地方自治体ではAI活用が進んでいる。滋賀県草津市は保育所の入所希望者を割り振りする事務に導入し、大幅な省力化と時間短縮を図っている。

 長野県は京都大、日立製作所の共同チームと連携し、政策立案に活用する実証研究を始めた。

 人口や出生率など各種データを収集、解析し、未来像とそこに至る道筋(シナリオ)を予測する。数万通りに分かれるシナリオを比較できるよう集約。どの時点でどんな政策を打てば地域分散型の持続可能な社会に進めるか、選択肢を提供する。ここまでがAIの役割になるという。

 人間の想像を超える未来が「見える化」される可能性がある。

 シナリオを比べて価値判断し、参考にして政策提言するのは人間の出番だ。どのシナリオを誰がどう選ぶのか。知事や県職員、県会はどんな役割を果たすのか。県民の声は反映できるのか。そうした設計図はこれからだ。

 政治や行政へのAI導入を巡っては憲法など法学の専門家から問題提起がなされている。

 昨年上梓された「AIと憲法」に論文を書いた帝京大法学部助教の水谷瑛嗣郎さんは「説明責任」と「熟議」の2点を挙げる。

 民主主義は結論に至るまでのプロセスが大切だ。

 AIとて完璧ではない。間違いもあろう。その場合、政治家や首長はなぜ間違えたのか原因を特定して説明責任を果たせるのか。AIの専門知識がない議員は批判的な吟味などしようもない。

 「熟議」とは、参加者が自らの主張の理由を示し、他者とともに受け入れられる理由を探すプロセスという。参加者は他者の視点を考慮することで考えも変わる。

 政治家が安易にAIに頼ると、政治家同士や有権者らとの間の熟議は後退せざるをえなくなる―。水谷さんの指摘だ。

   <憲法とどう調和>

 AIに読み込ませるデータ収集にも課題がある。

 「AIと憲法」の編著者で慶応大教授の山本龍彦さんがこの本で米国ボストン市の例を挙げる。

 同市は道路状況を調べるため市民のスマートフォンから得られる衛星利用測位システム(GPS)位置情報を利用した。だがこの方法だと道路の補修は所得が高い市民が住むエリアに集中した。

 低所得層はスマホを持っている人が少なく、その居住地域のデータが十分得られなかったためだ。

 データが実情を公正に反映していなければAIの判断がゆがむ。特定の地域に不利な政策が実行される恐れがあった事例だ。

 AIの活用を否定しているわけではない。<ポイントは経済合理性や効率性だけにとらわれない、憲法と調和的なAI社会の実現にある>。山本さんはそう書いている。複眼的な思考の勧めだ。

 昨年4月、多摩市長選の掲示板に風変わりなポスターが貼られた。候補者本人の写真はなく、ロボットが「人工知能が多摩市を変える」と訴え「しがらみのない公正な政治」などの公約を掲げるデザインだった。

 IT業界で仕事をしていたという44歳の男性立候補者は、大敗したものの4千票余を集めた。

 水谷さんによれば米国にはオバマ氏にかけたロボット大統領「ロバマ」の開発を進めているAI経営者がいる。

 技術的に完成のめどは立っていないが、背景には人間の政治への不信がある。私利私欲に走り判断を誤る、即座に決断できない、と。「ロバマ」が登場すれば人々はAIの万能感に浸り、その決定に従う社会が来るのだろうか。

 人の息遣いが伝わる熟議の価値を見直し、進化させられないか。AIをチェックし議員を支援できる専門家を議会に置くなどの仕組みもいる。AI社会の入り口で共に考えたい課題である。

(2月10日)

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