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松橋事件の再審 冤罪検証する仕組みを

 一日も早く冤罪(えんざい)被害の回復を図るため、再審の確定から半年足らずで無罪判決を出した裁判所の姿勢は評価できる。ただ、なぜ誤判に至ったかの検証がおろそかになった面は否めない。

 熊本県で1985年に起きた松橋(まつばせ)事件である。宮田浩喜(こうき)さんは、将棋仲間の男性を殺害したとして懲役13年の判決が確定し、服役を既に終えている。

 事件から34年。85歳になった宮田さんは脳梗塞の後遺症や認知症で最重度の要介護認定を受け、意思疎通も思うに任せない状態だ。弁護団や支援者は、存命中の再審無罪をと訴えていた。

 「犯人であることを示す証拠はなく、殺害は認められない」。再審無罪を言い渡した熊本地裁の判決は、誤判に言及せず、宮田さんに謝罪する言葉もなかった。

 再審の決め手になったのは、検察が公判で開示していなかった証拠だ。捜査段階の自白で「犯行後に燃やした」としていた布きれを検察が弁護団に開示したのは、有罪が確定した7年後だった。

 自白のほかに犯行を裏づける物証はなかった。ないはずの布きれがあったことで自白の信用性は否定された。布きれの存在が公判時に分かっていたら、有罪判決が出たとは思えない。

 刑事裁判で最も重んじるべきは、無実の人を罰しないことだ。虚偽の自白に追い込んだ捜査手法や、検察の証拠開示のあり方とともに、自白に依拠して有罪と認定した裁判所の責任が厳しく問われなければならない。

 欠かせないのは、誤判の原因を究明し、なぜ冤罪を防げなかったかを検証することだ。松橋事件のほかにも冤罪は相次いでいる。個々の事例を徹底して調査し、刑事手続きや裁判のあり方を見直していく仕組みをつくれないか。

 日弁連は、第三者機関の設置を求める意見書を2011年に出している。捜査機関や裁判所から独立して調査がなされるべきだと指摘し、国政調査権を持つ国会に置くのが最も適当だとした。

 あらためて目を向けたい提言だ。再審無罪が確定した事件を対象に、司法権の独立を尊重した仕組みにする必要がある。英国では70年代から、独立した調査委員会が設けられているという。

 冤罪は人の一生を損なう重大な人権侵害である。被害回復の妨げになっている再審制度の不備を改めるとともに、そもそも冤罪を生まないために、刑事司法制度の問題点を具体的に洗い出し、改革を進めなければならない。

(4月3日)

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