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殺人未遂不起訴 捜査は適正だったのか

 殺人未遂の疑いで逮捕された後、不起訴処分になった松本市の女性が記者会見して無実を訴えた。不当な捜査と勾留によって人権を侵害されたと警察や検察、裁判所を批判している。

 身柄の拘束は23日間に及んだ。経営する飲食店を休業せざるを得なかった上、犯人視する情報がSNSやインターネットで拡散されたという。実名で顔を出して会見に臨んだ女性は、ほかに被害回復の方法がないと述べた。

 逮捕、拘束されたことによって被る損害や社会的な不利益は大きい。起訴されなければ済む話ではない。地検は不起訴の理由を本人に告げていない。県警が「コメントはない」としたことを含め、捜査当局の姿勢は誠実さを欠く。

 憲法は、刑事手続きの適正さを確保し、人身の自由を守るため詳細な規定を置いている。長く勾留して取り調べる必要はあったか。逮捕したこと自体に問題がなかったか。捜査のあり方が問われる。地検、県警は説明すべきだ。

 女性は、店の従業員2人とともに2月に逮捕された。従業員と共謀し、客の男女に覚醒剤が入った飲み物を飲ませて殺害しようとした容疑だった。その後、従業員の1人は殺人未遂で、もう1人は傷害罪で起訴されている。

 女性は勾留期限の3月初めに処分保留で釈放され、29日に不起訴になった。殺人未遂という罪の重大さからすれば、容疑事実がありながら検察の裁量で起訴を見送る起訴猶予とは考えにくい。

 不起訴処分にはほかに、犯罪を認定できない「嫌疑なし」、証拠がそろわない「嫌疑不十分」などの場合がある。地検が実際にどう判断したのかは分からない。刑事訴訟法には、不起訴理由を告知する明文の規定がない。

 被害回復のための仕組みも乏しい。裁判で無罪になった人に対しては、憲法に基づいて国が補償することが刑事補償法で定められている。けれども、被疑者として身柄を拘束されて不起訴になった場合は、その対象にならない。

 別に補償規程はあるものの、法務省の内規にすぎず、判断は検察に委ねられている。嫌疑なしなら補償を受けられる一方、嫌疑不十分や起訴猶予のときは受けられず、不服申し立てもできない。

 補償の法制化を求める意見は以前からある。裁判で無罪になった場合と同じように法的な請求権を認めるのは難しいとしても、捜査権限の行使によって生じた被害をどう回復するか。制度のあり方にあらためて目を向けたい。

(4月6日)

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