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ハラスメント規制 国際基準に近づけねば

 職場での暴力や嫌がらせ(ハラスメント)を全面禁止する条約案が国際労働機関(ILO)の総会で討議されている。会期末の21日までに採択される見通しだ。ハラスメントを規制する初の国際的な基準となる。

 日本でも先月、規制法が成立した。けれども、ハラスメント行為自体を禁止する規定がないことをはじめ、条約案が定める規制の水準には遠く及ばない。採択されても批准は困難とみられ、政府は賛否を留保している。

 働く人の尊厳や人権に関わる問題だ。執拗(しつよう)な叱責(しっせき)や罵倒で精神的に追いつめられ、自殺につながることも少なくない。各国の取り組みや国際基準を踏まえ、国内での法的規制のあり方をあらためて議論する必要がある。

 身体的、精神的、性的、経済的な危害を引き起こす可能性がある一連の行為と慣行―。条約案はハラスメントを幅広く定義し、各国が法律で禁止するとともに、被害者の保護や補償のための対策を取るよう定めている。

 一方、日本の規制法は企業に相談窓口の設置などの防止対策を義務づけるにとどまる。被害者の範囲も、条約案が研修生や就職希望者らを広く対象とするのに対し、従業員に限定した。指針を策定する際に考慮するという。

 これまで法的な規制がなかったパワハラについて企業に防止義務を課したことは一歩前進だが、それだけではおのずと限界がある。セクハラは既に男女雇用機会均等法で防止措置を義務づけているものの、被害は後を絶たない。

 ハラスメントの禁止規定は、損害賠償の根拠になることを恐れて経済界が反対し、見送られた。けれども、働く人の人権を守ることは企業の責務である。何より経営者側が後ろ向きな意識を改めなくてはならない。

 広告大手、電通の社員だった高橋まつりさんが2015年に過労自殺した背景には、長時間労働に加え、度重なる上司のパワハラがあったと指摘されている。ほかにも過労自殺の要因になったとみられる事例は多い。全国の労働局に寄せられる「いじめ、嫌がらせ」の相談は年間7万件を超す。

 パワハラは業務上の指導と区別が難しい面もある。だからといって、人格を否定するような暴言や理不尽な行為が見逃されていいはずはない。働く一人一人が尊重される職場をどうつくっていくか。法の見直しとともに、それぞれの企業、職場でハラスメントをなくす取り組みを強めたい。

(6月14日)

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