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あすへのとびら 荒廃農地の再生 意欲ある人材を起点に

 千曲川沿いに広がる市街地を見渡す南向きの丘陵地に、ワイン用ブドウの幼木が整然と並ぶ。

 東御市祢津御堂。荒れ果て、放置されていた桑園がブドウ畑に生まれ変わった場所だ。今年、ワイナリー(ワイン醸造所)開業を目指す農家が苗木を植え始めた。

 県営事業で整備された計約30ヘクタールで、農地の再整備としては県内最大規模になった。3、4年後には収穫が始まる。

 県内各地で近年、荒廃農地を再生させて新たな農業生産に乗り出す取り組みが増えている。

 ワイン用ブドウへの活用は、安曇野市明科地域や上高井郡高山村でも進む。長野市の綿内東町地区には、荒廃化が目立つ山際の農地を再整備して最新の技術を使ったリンゴ栽培を目指す計画がある。

 果樹以外の事例もある。松本市の農業生産法人は同市などの荒廃農地を積極的に耕し、ソバの栽培を増やしている。

<都道府県別で1位>

 県農村振興課によると、2014〜17年の4年間に再生された県内の荒廃農地は計2854ヘクタール。都道府県別で1位だった。

 担い手に農地集積を図る政府の農地バンク事業が14年度から始まったのに合わせて集計された。

 農村の過疎化や高齢化、貿易自由化による競争激化で農業は衰退傾向が続く。そんな状況下で目を引く、明るい側面である。

 一方、農林業センサスによると、県内の2015年の耕作放棄地は1万6776ヘクタールに上る。全耕作地に占める放棄地の割合は19%。全国の約2倍だ。比率が高いのは、傾斜地で農地区画の狭い中山間地域が多いからだ。

 解消には程遠い。だが新しい芽は出ている。それを育て、さらなる農地再生につなげたい。

 何が奏功したのか。再生事例の多くに共通するのは、意欲的な担い手の存在だ。誰がどんな作物を求めているか。どう作って、どう販売するか。主体的に戦略を練ることができる経営者である。

 自営業なら当然求められる要素だろう。だが農業では、必ずしもそうではなかった。規格に合う作物を生産し、農協や卸売市場に出荷するまでが仕事、といった意識もあったのではないか。

 意欲ある人材をどう呼び込み、農業経営者としての自立をどのように支えていくか。農地再生の重要な鍵になっている。

 「挑戦したい人は、都市部を中心にかなりいる。むしろ、それまで農業に縁がなかったような人の方が向いているとも思う」

 新規就農者の支援に力を入れる信州うえだ農協(上田市)の子会社、信州うえだファームの船田寿夫常務は、そう感じている。

 同社は、耕作放棄地を借りて就農希望者の研修の場として活用し、就農時にそのまま引き渡す取り組みを09年度に始めた。2年間の研修中は社員として雇用する。昨年春までに20代から50代の計28人が独立し、野菜や果樹を作る。県外出身者が18人を占める。

 ワイン用ブドウは、東御市の一帯が日照時間や土質で栽培適地として知られるようになり、注目を集める。ワインの評価も高い。

 今年は欧州連合との経済連携協定(EPA)も発効。競争は厳しく、追い風ばかりではない。それでも、ワイナリー開業を目指してやってくる人は絶えない。

 就農支援は、県内農協では上伊那や松本ハイランドなどもそれぞれの方式で力を入れる。県は、ベテラン農家の元で研修する「里親」事業を03年から設けている。

 近年は、農業生産を手掛ける企業への就職も、独立就農への主要ルートの一つになっている。

<就農支援の重要性>

 地域密着型の産業である農業は、縁のなかった人たちにとって参入のハードルが高い。農協や自治体が調整に果たす役割は重要だ。信州では、それがある程度有効に機能したとみられている。

 課題もある。例えば就農資金だ。それまでの仕事を辞めて就農に踏み切ると、当初数年の収入は期待できない。国の給付金制度はあるが、予算が絞り込まれた。現場からは懸念の声が聞かれる。

 政府の農地バンクは、都道府県ごとに置かれた農地中間管理機構が賃貸を仲介する事業だ。規模拡大による競争力強化を狙う。

 政府は大規模農家などの担い手に全耕作地の8割を集める目標を立てたが、今年3月に全国で56%にとどまった。集積しにくい中山間地域が多い県内は37%だ。

 規模拡大を進めるにしても、欠かせないのは意欲ある担い手の存在だろう。今後は人工知能(AI)やロボットを使う「スマート農業」も広まる。生産性向上にも目を向ける必要がある。

 門戸を広げ、柔軟な発想を持った人材を獲得していかねばならない。積み重ねた支援の効果と課題を共有し、充実を図りたい。

(6月16日)

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