長野県のニュース

ハンセン病裁判 控訴見送りは当然として

 ハンセン病患者の強制隔離政策が家族の被害にもつながったとして国に賠償を命じた熊本地裁の判決が確定する。政府が控訴を見送ることを決めた。

 12日の期限を前に、安倍晋三首相が「控訴しない」と表明した。見過ごされてきた家族の被害の回復に道を開く判断である。

 元患者の家族が起こした集団訴訟だ。判決は、就学・就労の拒否や結婚差別を挙げ、憲法が保障する人格権や婚姻の自由が侵害されたと認定。隔離政策によって差別の社会構造が形づくられたとして国の責任を明確に認めた。

 明治期に始まった強制隔離政策は戦後半世紀余を経た1996年に「らい予防法」が廃止されるまで続いた。その歴史は「恐ろしい病気」という意識を人々に植えつけ、家族も差別、排除される状況を生んだ。国は責任を免れない。控訴を見送るのは当然だ。

 隔離政策を違憲と断じた熊本地裁判決が2001年に確定し、元患者に補償がなされる一方、家族の被害は対象になっていない。首相は「筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族の苦労をこれ以上、長引かせるわけにはいかない」と述べた。ならばなぜもっと早く被害回復を図らなかったのか。

 裁判では、隔離の対象でない家族の被害に国の責任は及ばないと主張して全面的に争い、政府内で控訴は既定路線だったようだ。判決後に原告側が繰り返し求めた厚生労働相との面会も拒んでいた。首相の判断は参院選を意識した場当たりの感が否めない。

 集団訴訟とは別に、母親が患者だった鳥取県の男性が2010年に起こした裁判も最高裁で係争中だ。政府はこの裁判でもこれまでの主張を維持して争うわけにはいかなくなる。矛盾を取り繕うのでなく、国の責任について明確な姿勢を示さなければならない。

 差別や偏見は過去のことではない。裁判の背後には、いまだに声を上げられない多くの家族の存在がある。原告に加わったために離婚に追い込まれた男性もいる。

 控訴の見送りは出発点にすぎない。広く家族の被害への補償、救済を図る制度や施策をどう具体化していくか。政府、国会の今後の取り組みこそが問われる。

 元患者の生活保障などを国に義務づけたハンセン病問題基本法に家族を被害者として明記することを原告、弁護団は求めてきた。判決の確定を踏まえ、政府に協議の場を設けるよう訴える声が上がっている。何よりまず真摯(しんし)に当事者と向き合うことが欠かせない。

(7月10日)

最近の社説