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親の懲戒権 残す理由が見いだせない

 しつけを名目にした虐待によって命を落とす子どもが絶えない。体罰や暴力の正当化に持ち出される余地がある規定を残しておく理由は見いだせない。

 民法が定める「懲戒権」だ。親権の一つとして、親が子を懲らしめることを認めた規定である。先の国会で改正された児童虐待防止法に、子どもへの体罰の禁止が明記されたことを踏まえ、法制審議会で見直しの議論が始まった。

 懲戒権は明治の民法で定められた。家父長制の下、親による制裁の色合いが濃い規定だった。戦後の現憲法の下でも親権に関わる条文は大きくは書き換えられず、懲戒権も残った。

 親権の捉え方が根本的に転換するのは、ようやく2011年のことだ。子どもの権利を保障し、最善の利益を図る観点から、親権は「子の利益のため」に行使すると明記された。法改正の趣旨を徹底するなら、懲戒権はこのとき廃止されていておかしくなかった。

 実際、改正に先立つ法制審の議論では、削除すべきだとする意見が出ていた。ただ、「必要なしつけもできなくなる」といった異論があり、見送られている。

 暴力は子どもの心身を傷つけ、時として命に関わる深刻な虐待につながる。「子の利益のため」にはならない。懲戒権の規定をとどめておくのは、子どもを虐待から守る妨げになるだけだ。

 法務省は今回、有識者らの研究会で見直しの論点を整理し、法制審に示した。規定の削除のほか、「懲戒」の語句を置き換えることや、懲戒権の行使として許されない範囲を明確にすることを選択肢として挙げている。

 けれども、語句の置き換えや禁止範囲の線引きはかえって言い逃れの余地を広げ、抜け道をつくることにもなりかねない。虐待防止法で体罰を禁止したことが意味を失う恐れがある。

 「時には体罰も必要」などとして容認する意識は社会に根強く残る。体罰禁止を法に明記し、懲戒権を廃止することは、暴力に頼らない子育てを社会の合意として根づかせていくための一歩だ。

 子どもへの暴力や育児放棄の背景には、生活の困窮や社会からの孤立といった事情が複雑に絡んでいる場合が多い。体罰は駄目だと言うだけでは、誰にも頼れずに困り果てている親を余計追いつめてしまいかねない。

 どうすれば暴力に頼らずに子育てができるか。法の見直しと同時に、親が抱える困難に目を向け、支える取り組みを強めたい。

(7月30日)

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