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政治家の回想録はとかく自己を正当化しがちだ。だが、当事者しか語れない貴重な歴史資料もある。東西冷戦に幕を引く核軍縮への流れをつくった当時のレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長も分厚い著書を残している

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ともにページを割いて誇る成果は地上配備の中・短距離ミサイル全廃で合意したINF廃棄条約だ。レーガン氏は新書記長が誕生するとすぐ会談を呼びかけた。「これまでの指導者と違って人好きのする何かがある」とサッチャー英首相から聞いていた

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1985年にジュネーブで初顔合わせ、翌年のレイキャビクで交渉は決裂するが、87年のワシントンで調印に至る。この2年間にスパイ事件などが水を差した。レーガン回想録によると、失望や腹立たしい思いを繰り返しながら何十通もの手紙をやりとりして距離を縮めたという

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両首脳は物別れに終わっても課題を深く話し合った。当時のチェルノブイリ原発事故が核兵器への認識を変えたともいう。最後は、ソ連の体制を揶揄(やゆ)する小話をレーガン氏が披露すると、ゴルバチョフ氏が大笑いするほど気心の知れた関係になっていた

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苦労した合意も壊すのはたやすい。今月2日、歴史的なINF廃棄条約が失効した。「ロシアが違反した」とトランプ米大統領が一方的に破棄したからだ。被爆から74年の夏、核軍縮の流れは逆流を始めた。なのに唯一の被爆国の首相には、核廃絶に貢献しようとする気概が感じられない。

(8月10日)

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