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あすへのとびら 転機の消防団 時代が求める新たな姿は

 「父親を毎日のように取られては子育てがつらくてたまらない」

 昨年6月、本紙くらし面に、「消防団、在り方に疑問」と題する30代女性の訴えが載った。

 ポンプ操法やラッパ奏法の大会練習で夫が不在がちになり、0〜5歳の3人の子育てがのしかかる苦境をつづった内容だ。

 当時の県消防協会長、古村幹夫さんは「そういう思いを持つ人はいるよな」と思った。団員家庭の負担の重さは、団長を務める地元の辰野町消防団でも以前から問題になっていたからだ。

 毎年6月の大会の1カ月以上前から週5日ほど、分団ごとに午前5時ごろから2時間弱練習するのが習慣だった。県大会まで進めば7月下旬ごろまで続く。

 ポンプ操法は、火元に見立てた標的に放水して素早さや規律を審査する競技だ。古村さんも熱心に取り組んできた。高まる団結力がやりがいになった。

 だが近年は、大会そのものへの疑問も感じ始めていた。実際の現場でどれだけ役立つのか、災害時の避難誘導や平時の防災指導など大会の競技より力を入れるべきことがあるのではないか、と。

 辰野町消防団は今年、大会開催を取りやめ、地区大会や県大会の出場も見送った。消防団の在り方に一石を投じることになった。

<社会や災害の変化>

 総務省消防庁によると、消防団の起源は江戸時代の町火消しにさかのぼる。各火消し組は組の名誉をかけ、競い合って働いた。町奉行の監督下にはあったものの、住民主体の自治組織だった。

 明治時代の「消防組」などを経て戦後、いまの消防団の形になった。消防本部などの「常備消防」を備える市町村は1970年時点で約3割。普段は他の仕事をしている住民が火事や災害が起きれば現場に駆けつけるスタイルが、長く消防の主体を担ってきた。

 しかし、高度経済成長期を経て多くの地域は、住民のサラリーマン化、多忙化、高齢化が進んだ。消防団員は減り続けた。

 55年の194万人から85年は103万人に。2018年は84万人となった。100%近い市町村が常備消防を置くようになったいまも、消火活動で重要な役割を果たしている地域は多い。

 消防団は、地域の青壮年の結び付きを強める役割も果たした。消防技術は先輩から後輩に受け継がれる。現場に出動する以上、規律は欠かせない。操法大会に熱を入れるのもその延長にある。

 一方、就業構造や住民意識の変化を踏まえると、地域の結束や伝統を前面に立てて負担を強いることは難しくなった。そんな現実に消防行政や消防団の指導者は、十分に向き合ってきただろうか。

 団員減少が続く中、13年に消防団重視を掲げる法律が成立している。「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律(地域防災力充実強化法)」だ。

 背景には、阪神大震災や東日本大震災がある。常備消防がカバーしきれない災害が現実となり、住民の主体的な防災活動が求められるようになった。その中心に消防団が位置付けられた。

 重要性は近年、高まる一方だ。昨年の西日本豪雨では、消防団員ら住民の呼び掛けで避難に踏み切れた人も少なくなかった。

 団員の負担軽減を図りつつ、災害多発時代にどう対応するか。

<地域防災の要として>

 辰野町消防団では、分団ごとに訓練を工夫し始めた。参加しやすい日程に変え、大会の選手が重点的に扱いを身に付けていたポンプやホースを誰もが使えるようにする、といった取り組みだ。

 目指すべき消防団の姿は、単純ではない。都市と農村、想定される災害時の状況など、地域による違いは大きい。大会も引き続き重視しながら、参加しやすい訓練の在り方を模索する消防団もある。試行錯誤が必要だろう。

 団員の全体数が減る一方、女性団員や学生団員は増加傾向だ。地域防災力充実強化法は、学校や企業に消防団に協力することも求めた。連携できるよう、県や市町村は支援を強めてほしい。

 訓練や団員確保のほかにも課題はある。非常勤の公務員である消防団員に出る報酬の扱いがその一つ。プールして活動費に充てる方式には、不透明さを指摘する声がある。個人支給への切り替えなど透明性の確保が求められる。

 消防団の改革を進めていく上で前向きに捉えたいのは、災害が多発する時代に入り、防災や被災者支援で役に立ちたいと考える人は増えているという点だ。

 被災地には全国から大勢のボランティアが集まる。災害や防災の知識を身に付けた「防災士」の資格を取る人も急増している。

 地域に住む一人一人の意識を喚起し、受け止める組織へと脱皮できるかが問われている。

(8月18日)

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