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ビキニ被ばく 被害救済の道を閉ざすな

 被害救済の扉は固く閉ざされ、時の経過とともに「なかったこと」にされてしまうのか。米国が1954年に太平洋のビキニ環礁で行った水爆実験による元漁船員らの被ばく被害である。

 労災認定にあたる船員保険の適用を求めた高知の元船員ら11人に対し、厚生労働省の社会保険審査会が全員の請求を棄却した。被ばくと健康被害との因果関係が認められないからだという。

 既に実験から60年以上を経て、因果関係の厳密な立証は難しい。むしろ、被害実態の把握を怠り、被害者をなおざりにしてきた政府の責任が重い。被ばくの事実があり、健康被害との関係を否定できなければ、救済を図るべきだ。

 水爆実験は、放射能を帯びた「死の灰」を広範囲に降らせた。静岡のマグロ漁船「第五福竜丸」は乗組員23人が被ばくし、無線長の久保山愛吉さんが半年後に亡くなっている。周辺の海域には、ほかにも多くの日本漁船がいた。

 政府は55年、米国から「見舞金」として200万ドル(当時で7億円余)を受け取ることで政治決着させている。漁業の損害補償に充てられたほか、一部が第五福竜丸の乗組員に分配された。

 それ以降、被ばく被害は放置されたに等しい。船員の健康状態の追跡調査は行われていない。被ばく当時の漁船の検査記録も政府は「見つからない」としてきた。ようやく開示するのは2014年になってである。隠していたと見られても仕方ない。

 被害の実態を掘り起こしたのは高知の元高校教員らによる地道な調査だ。30年にわたる聞き取りで、被ばくとの関連が疑われるがんや白血病で多くの元船員が苦しんでいることが分かった。

 厚労省の研究班は16年に、被ばくによる健康への影響は考えられないとする調査報告をまとめたが、当事者や遺族から話を聞いたわけではないという。実態も踏まえずに、なぜ「考えられない」と切り捨ててしまえるのか。

 元船員らが国に賠償を求めた裁判では、高知地裁が昨年、損害賠償を請求できる期間を過ぎたとして訴えを退けた。ただ、被ばくの事実は認め、救済の必要性はあらためて検討されるべきだとして政府や国会の対応を促している。

 被ばくした元船員らは既に高齢だ。救済、援護の手だてを講じないまま、置き去りにし続けてはならない。被害者の健康状態や生活の状況を調べ、支援する仕組みをつくることは、早急に取り組むべき、政府、国会の責務である。

(10月8日)

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