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米軍シリア撤収 「後は勝手に」の無責任

 面倒だから後は勝手にやってくれ―。そんな本音を臆面なくさらけ出したかのようだ。

 米トランプ大統領がシリア北部からの米軍撤収を突然発表した。

 イスラム国(IS)掃討作戦で米軍と共闘したクルド人勢力は、シリアで後ろ盾を失う。クルド人を敵視するトルコはシリアのクルド人勢力支配地域に新たな軍事作戦を行う見通しだ。米政権は撤収後のトルコ軍作戦を事実上黙認する姿勢を示した。

 「用済み」とばかりに見捨てられたクルド人は、今度は反米アサド政権と組んでトルコに対抗する構えだ。混乱に乗じ、復活の兆しを見せるISが再び勢いを得る可能性がある。隣のイラクでも反政府デモで多数の死者が出ている。

 泥沼の戦いがさらに広がる恐れが大きい。国際社会はトルコに自制を求め、米政権に無責任な対応を改めるよう要請すべきだ。

 米軍によるクルド人勢力への支援はオバマ前政権が踏みきった。早期帰還はトランプ氏の公約だった。昨年12月、トルコのエルドアン大統領から「IS残存勢力はトルコが掃討できる」と説明されると、即座に約2千人の部隊の撤退を約束してしまった。

 その後、各国や与野党の反対で撤収は一部にとどまった。トルコとは撤収に絡んで安全地帯の設置を模索していたが、難航。トランプ氏は強硬なエルドアン氏の説得を諦め、戦略を転換したようだ。

 「われわれはばかげた終わりなき戦争から手を引くときだ」「(クルド人には)大金と武器を渡してきた」。トランプ氏はツイッターでこう主張した。1月、クルド人勢力の代表に「クルド人を愛している」と語った同じ人物の言葉とは思えない。なりふり構わぬ「自国第一」「大統領選第一」の姿勢だけが際立つ。

 今回も与野党が強く反発している。すると「(トルコ軍が)許容できない一線を越えたらトルコ経済を崩壊させる」と、再び方針転換ともとれる発言をした。側近の相次ぐ辞任で、もはや政権の外交は一貫性を失っている。

 クルド人はトルコ、シリア、イラン、イラクなどに2千万〜3千万人が暮らす。各国で少数派として迫害を受け、武力闘争も繰り返している。大国や周辺国の利害に翻弄(ほんろう)され、利用されてもきた。クルド人の怨嗟(えんさ)をこれ以上深めてはいけない。

 日本も中東にエネルギーを依存している。米国とトルコの双方に働き掛け、情勢の安定に役割を果たしたい。

(10月9日)

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