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政令恩赦 続ける意義があるのか

 安倍晋三政権が、天皇陛下の「即位礼正殿の儀」に合わせ政令恩赦を実施する。

 有罪判決が無効になる「大赦」と、刑や刑期を軽くする「減刑」は見送り、喪失・停止された資格を一律に回復する「復権」だけに絞っている。

 政府は「改善更生の意欲を高めさせ、社会復帰を促進する刑事政策的な見地で」と説明している。政令恩赦を続ける積極的な意義は見いだせない。

 奈良時代からあるという恩赦には「慈悲で罪を許す」の意味があり、皇室や幕府の慶弔時に行われてきた。明治憲法では天皇の大権事項だった。現憲法下では内閣が決定し、天皇の国事行為とする規定になっている。

 該当者に一律に適用する政令大赦と、申請に基づき中央更生保護審査会が個々の可否を決める個別恩赦に大別される。この個別恩赦には、国の行事と関係なく行う常時恩赦、内閣が基準と期間を定める特別基準恩赦がある。

 政府は今回、比較的軽微な罪で罰金刑を受け、納付から3年以上が経過した55万人を対象とする。道交法や過失運転致死傷等の違反者が8割余を占める。

 具体的には医師、看護師、調理師といった国家資格試験が受けられるようになるという。受験資格の復権で「更生の意欲」が高まる人はどれだけいるのだろう。公民権も戻るのだから、実際は公職選挙法の違反者が恩恵を受ける結果にならないか。

 1989年の昭和天皇大喪の恩赦には大赦が含まれ、国民の批判を招いた。近年は犯罪被害者と遺族の心情に配慮する意識がより高まっており、世論調査では恩赦に反対が半数を超えている。

 識者の間には、行政が司法判断を覆すのは三権分立に反するとの異論がある。政治家による恣意(しい)的な運用も懸念される。

 一人一人の更生具合や行状、被害者の感情も考慮する個別恩赦が支えになっている、との受刑者の声もある。政府が「刑事政策的な見地」に立つなら、常時恩赦の拡充にこそ努めるべきだ。

 安倍政権は直前まで恩赦の実施方針を示さなかった。検討過程も明らかにしていない。

 戦前と異なり、課題はあっても安定して司法制度が機能する現代で、「権威の証明」としてのみ政令恩赦を使うなら必要性はない。仮に維持するとしても、第三者機関が恩赦の種類や対象範囲を審議し、国会の承認を得ることが最低条件だろう。

(10月21日)

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