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日米貿易協定 疑問置き去りは許されぬ

 このままでは、工業や農業の将来に深く影響する国際協定が数々の疑問を残して発効を迎えることになる。

 参院で審議中の日米貿易協定である。与党が、会期末の迫った今国会での承認を最優先に位置付けている。

 自動車関税の撤廃の見通しなど、内容にあいまいな点が少なくない。政府は、疑問に正面から答えない姿勢を改めるべきだ。

 日米両政府が9月に合意した協定は、日本から米国に輸出する自動車や部品の関税撤廃が見送られた。オバマ前政権との環太平洋連携協定(TPP)交渉時点では勝ち取っていたはずの内容だ。

 一方、守りの分野に当たる農産物については、TPP水準までの関税引き下げを認めた。譲歩が目立つ内容なのは明らかなのに、政府は「ウィンウィン(相互利益)」「バランスの取れた内容」などと主張し続けている。

 政府は10月、協定の発効で国内総生産(GDP)が0・8%押し上げられるとの試算を発表した。年間4兆円に相当し、28万人分の雇用が増加するという。

 この試算は自動車と部品の関税撤廃が前提になっている。協定は「さらなる交渉を実施」と記載して今後に含みを持たせているが、約束ではない。たちの悪い水増しではないか。

 安倍晋三首相は「単なる交渉継続ではなく、あくまでも撤廃が前提」とするが、根拠となる文書がなくては説得力を持たない。

 大統領選を控えた米トランプ政権が今後、国内政治にマイナスとなる自動車の関税撤廃を簡単に受け入れるとは考えにくい。

 米政権は交渉で、撤廃を認める場合は組み立てる部品の多くを両国内で調達する厳しい原産地規則を求めた、との見方もある。調達網を世界に広げる日本のメーカーには受け入れがたいだろう。

 自動車関連の関税撤廃がない協定は世界貿易機関(WTO)のルールに反するとの指摘もある。

 WTOは、貿易協定の締結の際に関税撤廃率を90%程度に引き上げるよう求めている。主力の自動車関連を除けば大幅に下回る。

 政府の試算は、発効に伴う国産農林水産物の生産減少額が600億〜1100億円とした。牛肉や乳製品への影響が大きい。

 この試算も、市場開放による価格低下を見込んだだけで、生産される量自体は減らないことを前提にしている。現実的ではない。

 米政権の圧力をかわすことに終始してごまかしを続けているとすれば、無責任と言うほかない。

(12月3日)

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