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ゲノム編集 確かな歯止め欠かせない

 遺伝情報を人の手で書き換えるゲノム編集は、まだ安全性が確立された技術にはなっていない。受精卵を子宮に戻し、出生につながる臨床研究や医療行為を厳格に禁じるのは当然だ。

 厚生労働省の専門委員会が、法律で禁止することを求める報告書をまとめた。今後、具体的な法制度の内容を検討する。

 子宮に戻すことは現在も禁じられてはいるが、研究の指針にとどまる。医療行為として行われた場合はそもそも対象にならない。

 ゲノム編集は、精度が高く簡易な手法が開発され、農作物の品種改良をはじめ幅広く応用が進んだ。医療の分野でも、遺伝性の病気の解明や治療に新たな道を開くことが期待されている。

 ただ、なお重大な課題がある。狙い通りに改変できなかった細胞が入り交じる「モザイク」や、狙っていない遺伝子を書き換えてしまう「オフターゲット」を防ぎきれないことだ。

 また、遺伝子の働きは複雑で、狙い通り改変できたとしても、思いもしない問題が生じることがあり得る。臨床で使える段階には達していない。

 まして受精卵に手を加えれば、改変された遺伝子は世代を超えて受け継がれる。取り返しがつかない影響を子孫にまで及ぼすことになりかねない。にもかかわらず、中国の研究者が一昨年、ゲノム編集した受精卵で双子を誕生させ、強い批判が起きた。

 ドイツやフランス、英国は臨床での利用を法律で禁止し、罰則を設けている。各国の状況も踏まえ、専門委は法による明確な規制が必要と結論づけた。

 遺伝性の病気の解明や治療のため、受精卵を子宮に戻さずに行う基礎的な研究は妨げない。技術の進展や社会情勢を見つつ、将来の臨床での利用について引き続き検討するという。

 目を向けるべきは、技術の安全性だけではない。受精卵の遺伝情報を人為的に改変することは、人間の存在や尊厳に関わる根源的な問題をはらんでいる。

 治療の範囲を逸脱し、親が望む容姿や能力を持つ「デザイナーベビー」につながることを懸念する声は強い。悪い遺伝子を取り除くといった発想から優生思想に結びつく恐れも指摘されている。

 技術そのものは簡易なだけに、見えないところで行われないよう、確かな歯止めをどう設けるか。専門委や政府内の検討にとどめず、社会の合意をつくっていく議論の場が欠かせない。

(1月13日)

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