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処理水の放出 既成事実化は不信深める

 このまま既成事実化して放出を強行することは認められない。

 東京電力福島第1原発の処理水である。政府の小委員会が海洋と大気への放出を、現実的な処分方法とする提言案を大筋で了承した。「海洋放出の方が確実に実施できる」として、事実上、海洋放出に絞り込んでいる。

 処理水に含まれる放射性物質トリチウムは、事故を起こしていない原発でも発生しており、濃度や量の上限を決めて海に放出している。科学的には環境への影響は小さいという判断だ。

 今後、政府が方針を決める。政府はきのう、在京大使館の関係者向けに提言案の説明会も開いた。手続きを積み重ねて、海洋放出に踏み切るつもりなのか。

 問題は多い。海洋放出には漁業者らが強く反対している。風評被害の懸念が残るからだ。

 福島県沖で出荷制限された魚種は最大44魚種に上ったものの、放射性セシウムの検出が基準以下になった魚が順次解除されてきた。昨年末に残り一つになり、地元には本格的な漁業の再開に期待が広がっている。それだけに、海洋放出への警戒感は大きい。

 根底にあるのは、東電や政府に対する根強い不信感だ。

 2018年8月に、浄化済みとされていた放射性物質が処理水に残留していたことが発覚した。東電は残留を把握しながら積極的に公表せず、情報公開の姿勢に批判が集まった。東電は放出する場合は再浄化するとしているが、安全の根拠を明確に示す必要がある。

 昨年夏には汚染水の保管タンク30基以上に沈殿物が堆積していることも判明した。それなのに小委員会で詳細に報告されず、本格的な議論もされていない。情報公開に対する東電の消極的な姿勢は変わっていない。

 量に対する不安もある。昨年10月末時点で処理水に含まれるトリチウムは約856兆ベクレルだ。事故前の福島第1原発の基準だと、年間総放出量の上限の40年分に近い。漁業関係者だけでなく、韓国も懸念を訴えているのが実情である。

 タンクに保管されている汚染水は約118万トンで、22年夏ごろに容量が満杯になる。放出開始までには設備建設などに年単位の時間がかかるため、着手を急ぎたいのが政府と東電の本音だろう。

 客観的なデータ提示などの風評被害対策と情報の公開が欠かせない。その上で幅広く意見を聞き、関係者が納得できるまで話し合うべきだ。時間切れを名目に強行する姿勢では信頼は得られない。

(2月4日)

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