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要求の見直し 春闘の意義が問われる

 攻防が本格化した今年の春闘で、一律の賃金引き上げ要求を見直す動きが労働組合の間に広がっている。

 トヨタ自動車やホンダの労組が、個人の人事評価を軸にめりはりをつけた賃上げを求める方針に転換した。

 変化は自動車業界に限らない。三菱UFJ銀行の労使は今春闘から一律のベースアップ(ベア)を廃止し、人事評価で賃上げ率を決める仕組みを検討する。

 業界で統一してベアを求める慣習を見直す動きも広まっている。自動車総連は昨年に続き目標のベアを示さなかった。電機連合は統一要求を掲げたが各社でばらつきが出ることを初めて容認した。

 大手労組の方針は春闘全体に影響する。日本型雇用慣行の代表である年功序列が大きく揺らぎ、全体の賃金底上げを目指してきた春闘が、岐路に直面している。

 人工知能(AI)の活用など経済のデジタル化や国際化といったビジネス環境の急速な変化を受け、人材獲得競争が激しさを増していることが背景にある。

 自動車業界は電動化や自動運転など「100年に一度」とされる変革期を迎えている。

 競争力向上には日本型とは異なる雇用や賃金体系の導入が必要だとの認識が、労使ともに広がっている。労使協調の見直しは避けられない流れのように見える。

 従来の春闘は一律の内容で要求を突きつけるスタイルだった。労組の交渉力を維持し、労働者の暮らしを守ってきた面があることも忘れてはならない。

 成果に応じた賃金配分を目指すとしても、従業員が広く納得できる公平な評価は簡単ではないだろう。最先端の分野ばかりが重要だとも言えない。目立たない分野で組織を支えている人にも安定した賃金で報いる必要がある。

 トヨタ労組は今回、ベアや定期昇給の総額で組合員平均1万100円の賃上げを求め、人事評価でベアに差がつく制度を提案。ホンダはベア相当で平均2千円を要求し、うち千円を、評価を基に年2回支給する「チャレンジ加算」の原資とするよう求めた。

 こうした異例の要求が、ひいては待遇の格差を安易に容認する傾向へつながる恐れはないか。

 連合は今春闘で初めて、企業内最低賃金として時給1100円以上という具体額を示した。非正規労働者に対応しきれなかった従来の経験を踏まえた取り組みだ。

 変革期だからこそ、労働者の暮らしを守る春闘の意義を見つめ直す必要がある。

(2月14日)

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