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ALS嘱託殺人 異様さの背景まず究明を

 事件の背景と真相が徹底的に究明されなくてはならない。

 京都に住む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者に致死量の薬剤を投与した嘱託殺人の疑いで、宮城と東京の医師2人が逮捕された。共に主治医でなく、女性と面識もなかった。

 女性が会員制交流サイトに書き込んだ安楽死の希望に反応したのを機に、1年近いやり取りをインターネットで続けていたようだ。容疑者の口座には女性から多額の現金が振り込まれていた。

 患者の命を守り、生きる道筋を探ろうとするのが医師の本分だ。自殺願望を抱く重い難病患者と向き合ったなら、まずはどう支えるかを考えるべきである。

 容疑が事実とすれば、患者の求めが発端としても、医師としてあまりにも命を軽んじる独善的な行為と言わざるを得ない。

 容疑者のものとみられるブログには、薬剤で人を死なせる方法、殺害の証拠を残さない手口に関する記述もあったという。安楽死を積極的に肯定するかのような内容も書き込まれていた。

 国内の医療現場では、重病患者の安楽死を巡り、担当医師が刑事責任を問われる事案がこれまで度々起こった。その経過とともに、延命医療や個人の尊厳について議論が交わされてきた。

 患者と主治医が直接話し合いを重ね、納得できる最期を考えていくのが本来の在り方だ。SNSのつながり、自宅での薬剤投与、金銭の授受など異様さが際立つ。

 ALSは筋肉を動かす神経が徐々に侵され、進行すると寝たきりになり、生命維持に人工呼吸器が必要となる場合が多い。国内の患者は9千人を超えるとされる。

 女性は1人暮らしで、24時間態勢の介護を受けていた。体をほとんど動かせず、視線の動きを画面に入力し意思を送っていた。

 ブログの記述からは、体が動かなくなる苦しみと孤独の中で、死への思いを募らせる姿が浮かぶ。主治医、ケア担当者らとの関わり方も検証が必要だろう。

 事件が社会に及ぼす影響も懸念される。重い難病を抱える人が安楽死を望むことに、安易な容認論が広がってしまうことだ。

 「生きたい」と願う当事者、支える家族らの希望を圧殺するような空気が生まれかねない。注視していく必要がある。

 国は終末期医療の指針で家族、担当医、介護職らを交えた対話の継続を重視する。患者が生きる権利を全うできるよう、緩和ケアの充実も急がなくてはいけない。

(7月25日)

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