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敵基地攻撃能力 結論ありきの危うい提言

 敵基地攻撃能力の文言はなくとも、指し示す方向が同じなら問題の所在は変わらない。

 自民党のミサイル防衛検討チームが「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を盛り込んだ提言案をまとめた。党内の手続きを経て、近く首相官邸に申し入れる。

 チームは、配備計画を断念した地上イージスに代わる防衛策を話し合うため、防衛相経験者を中心に6月末に発足した。

 攻撃能力の保有に積極的な小野寺五典元防衛相が座長を務め、意見を聴いた有識者4人も肯定派だった。わずか1カ月の間に、結論ありきで進んだ感は否めない。

 提言案は、常時持続的にミサイル防衛が可能な代替策が必要と指摘。相手領域内で阻止する能力を含め、抑止力を高めるよう要請している。多数の人工衛星や無人機による探知能力の向上、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域での能力強化も促した。

 超高速で複雑な軌道のミサイルを開発する中国や北朝鮮、ロシアを念頭に置く。従来の迎撃手段では防ぎ切れないとの見方から、相手の発射拠点を破壊する能力の保有が浮上している。

 攻撃能力の活用には(1)相手の発射拠点の正確な把握(2)防空能力を無力化して制空権を確保(3)発射拠点の破壊(4)効果の評価と再攻撃―が必要になるという。

 現在の自衛隊の装備では不可能で、膨大な費用を投じなくてはならない。判断を誤って攻撃すれば国際法が禁じる先制攻撃に当たる危うさが付きまとう。

 周辺国のミサイルの脅威が増すのは、米国と中国、ロシアと欧米の対立が深まり、軍縮の機運が大きく後退しているからだ。

 この状況に手を打たず、米軍と一体化し、軍備を増強することが抑止力になるのか。対立の構図に組み込まれ「攻撃される恐れ」が常態化するだけだろう。

 自民のチームとは別に、超党派の議員でつくる勉強会が「一定の防衛的打撃力から成る積極的な抑止体制の確立」を政府に求める提言をまとめている。軍備拡大に偏った主張だけが強まっている現状が、何より気にかかる。

 安倍晋三政権はこうした提言を踏まえ、国家安全保障会議で協議し、9月にも新たな安全保障戦略の方向性を示すとしている。

 憲法や専守防衛の理念から逸脱する懸念の強い問題を、限られた範囲の意見だけで取り決めていいはずがない。異論にこそ耳を傾けなければならない。

(8月1日)

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