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捜査に顔認証 監視の強化招く危うさ

 顔認証技術は、膨大な顔画像のデータから特定の個人を識別し、行動を追跡、監視することを可能にする。捜査機関による利用を歯止めなく認めれば、犯罪の捜査を名目に市民のプライバシーが侵され、人権と尊厳の土台が揺らぎかねない。

 警察がこの春から全国で「顔認証システム」の運用を始めた。事件現場周辺の監視カメラや関連するSNSの顔画像を、過去に逮捕された容疑者の顔写真データベースと照合する仕組みだ。

 特徴が類似する人物を即座に割り出せ、既に活用されている。運用の実態は見えない。犯罪捜査に限定して使うというが、それを確かめるすべはない。

 警察の判断に委ねていては、権限の逸脱や乱用を防げない懸念がある。利用できる範囲や手続きを明確化するとともに、運用の実態を点検する仕組みが必要だ。

 監視カメラは、街中や商業施設をはじめ今や至るところに置かれている。高度な顔認証技術を組み合わせれば、捜査に威力を発揮するのは確かだろう。群衆の中から特定の人物を瞬時に見つけ出せるほか、マスクやサングラスをしていても判別が可能だという。

 一方で見落とすわけにいかないのは、特定の個人の行動を追跡するのを容易にすることだ。当局が狙いをつけた市民の監視に利用されかねない危うさがある。

 共謀罪法により警察の権限が強化されたことにも目を向けなければならない。処罰の対象になる共謀の察知には監視が欠かせない。通信傍受(盗聴)と並んで顔認証技術はその手段になり得る。

 米国では、市民の抗議活動や少数派の抑圧につながるとして利用を制限する動きが起きている。サンフランシスコ市は、警察や公共機関が顔認証技術を使うことを禁じる条例を制定した。

 アマゾンをはじめ、警察への顔認証技術の提供を取りやめるIT企業も相次ぐ。英国でも先月、警察が導入した顔認証の仕組みを、プライバシーを侵害し、違法だとする判断を裁判所が示した。

 日本の警察がデータベース化している顔写真はおよそ1千万件に上る。どう管理、運用されているかは、DNA型のデータを含めて、外からはうかがい知れない。

 照合のために集めた顔画像の扱いと合わせて、プライバシーを守る観点から、厳格な法の定めが要る。運用の監督にあたる独立した機関も置くべきだ。個人データの主体である一人一人が関心を向け、議論を広げたい。

(9月16日)

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